第13話  ずんだ餅






「…………………」
「……そんなに見られると喉に通るモンも通らねぇじゃねぇか…」









 あまりにも美伊が元親をジッと見ていたため、元親は何かを口に食わえたまま美伊に語る。
 しかし、当の本人が見ていた物は元親の食わえているそれだった。









「私が見ているのは元親様のそれです」
「あ?………これ?」
「はい!」









 美伊は指を指し、元親に言う。元親は確認するように美伊にもう一度聞くとそれだと言った。
 元親が食わえているものは緑色の物だった。その緑色の下にあるのは餅のように白い何かだ。美伊はそれをずっと気になっていたようだ。
 だが、元親は監視されているとばかり思っていたため、笑いを吹き出した。











「な、何か可笑しいですか?」
「いや……ッハハ、なんでぃ。拍子抜けってーのはこういう時に使うんだろうな」
「………?」
「はー、面白ぇな、アンタ。これはずんだ餅ってやつだ」
「ずんだ餅………ですか?」









 ずんだ餅。これは今や東北名物の枝豆餅だ。
 だが、元親は四国の国主だ。何故東北の名物が元親の口に入っているのかと言うと━━








「独眼竜って知ってか?」
「独眼竜…………確か、奥州の国主ですか?」
「おうよ。ここに行く前にちと奥州に用があって独眼竜のとこに行ってきた際に貰ったんだ」
「まぁ、そうだったのですか」
「一つ食うか?」









 いつの間にか元親の隣にいる美伊にずんだ餅を前に出せば少し戸惑う美伊。何せ元就の敵手であるあの長曾我部元親だ。ずんだ餅は欲しいが、これは許されるのだろうか、そんなことが彼女の頭を過ぎらせる。
 元親は「あぁ、そっか」と美伊の様子を見て何か分かったのか美伊に語る。








「安心しな。毒なんて入ってねぇし、入れるつもりもねぇよ。毛利の野郎にもちゃんと言い聞かせる。ほら、枝豆が落ちるぜ?いいのかー?」
「あっ!」









 ふいに言われたので思わず元親の手にあったずんだ餅を手に取る美伊。あっと気付いた時には既に手の中にずんだ餅があった。
 それを見て面白がって笑う元親に美伊は頬を膨らませて睨む美伊だった。しかし、食べたかった物が今手の中にあるので一口食べてみる。意外と美伊の口に合っていたらしく、美伊の顔は綻んだ。








「すごく美味しいですね!もっと苦い物だと思っておりました」
「そうだろ?だが、独眼竜が言うには嫌いなヤツは嫌いだろってさ」
「そうですかね?」









 どこが嫌いになるのか分からないままずんだ餅を美味しそうに食べる。
 元就と対照的なこの姫が本当に元就の正室になるやつなのだろうか。元親はそんなことを微笑みながらずんだ餅を食べる。
 ふと、元親は前の元就との戦を思いだし、口にした。








「そういやぁよ、アイツ変わったな」
「元就様ですか?」
「あぁ。よくはワかんねぇけど、雰囲気っつーの?柔らかくなった気がする」
「………?そうですか?」
「アンタはいつここに来たんだ?」
「一月程前でございます」
「…………………あー、そういうこと。ハハッ、なんか納得したわ」









 笑いながらどこからか杯を取り出し、酒も取り出す。美伊に「飲むか?」と誘うが、美伊は酒に強くはないため丁重に断った。
 しかし、美伊は元親が何故納得したのか分からない。元就の何が変わったのか、美伊にはまだ分からない。







「だが、まだ一月でここまで変えるもんかぁ?」
「……あ、あの…………近い……です………」








 元親は確認するように美伊を近くで見ていた。少し恥ずかしがりながら美伊は元親の視線を合わせながら反論する。
 元親の右目は海のように青い色だ。南蛮人の目と疑うその目はどこか元就とは違う畏怖のようなものがない。どちらかと言えば澄んだ目。真っ直ぐな目に美伊はその目を離さずにはいられなかった。
 だが、それは元就にも言えたが、元就の目は奥がよく見えてこない、何を考えているのか分からない深い黒に近い茶の色をしている。
 彼女はそれを怖いと感じないといえば嘘になる畏怖を感じることがあるのだ。









「そういえば、元就様に何をお渡ししたのですか?」
「ん?あぁ、同盟の話だ」
「えっ!同盟……ですか?」
「最近、織田の動きが活発になってきたからな。こっちも手を打っておいて、攻め込まれないようにって意味でアイツが同盟の話を持ってきたんだ。この前の戦の時にな」
「元就様が………」
「ベラベラと余計な話をするでない。いつまでおるつもりぞ、長曾我部」








 元親と美伊が同盟の話をしている丁度そのときに元就が部屋から戻ってきた。








「返事もらってねぇのに帰れっかよ」
「フン。同盟は成立ぞ、さっさと散れ」
「アンタのことだ。この同盟で何を企んでいるのかがワかんねぇからこうして待ってやったんだろうが」









 二人の間に火花が散る様子を美伊はオロオロと冷や汗をかきながら見る。元就がいち早くそれに気付き、溜め息をこぼして口論をやめる。元親も喧嘩腰ではあるが、口論をやめた。








「先も言ったとおり、織田と豊臣の進行を妨げるための策よ。それが終わればすぐにでも解約してくれるわ」
「あーあー、わーったよ。んじゃ俺はそろそろお暇しますよーっだ。あ、妙玖さん、これやるよ。━━━あとで毛利とでも共に食いな」
「!!も、元親様!」
「ヘヘンッ、んじゃーなー」








 先程頂いたずんだ餅を渡してから、美伊の耳元で小さな声で元親は言ってから酒をグイッと一杯飲み、毛利家を後にした。
 元就が「飲んだくれめ」と皮肉な言葉を残すも、「土佐は酒に強ぇーんだよ、ばーか」と元就の方を向かずに手を振りながら元親は吐き捨てた。








「(なんだか、友のような関係ですね)」








 美伊がクスリと笑いながらそんなことを思ったのは元就に内緒である。



戻るのか
目次に行くのか
どちらぞ



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -