第11話  本音




 時は一気に飛び、ひと月が経った。相も変わらず、美伊は昼餉が終わった後は元就の部屋に行き、元就と会話をするという日を送っていた。
 また、このひと月の間に戦がなかったわけではない。
 長年瀬戸内海を挟んで競っている敵が一人、長曾我部元親との戦いもこのひと月の間にあった。もちろん、他の戦も一戦あった。
 だが、それは一刻もせずに落とされた。詭計智将と名ばかりではない。




 美伊はというと、戦があるたびに肝を冷やしながら待っている。

 この世、戦国時代の世だ。戦に出て行く者はいつ死んでもおかしくない。ましてや大将というのは常に命を狙われる。元就は毛利家のその総大将。
 武家で生まれ育った美伊だ。薙刀や刀の使い方は一通り覚えた。だが、それは自分の身を守る程度のもの。とても戦で使えるわけではない。

 それを一番歯がゆいと思い、元就を守れないという悔しさがありながら彼女は元就を送っていった。








「いだっ」








 そのことを話すと元就にデコピンを喰らわされた。半泣きになりながら「何をするのですか!」と怒る。が、元就の威圧には勝てない。美伊は少し肩を窄(すぼ)めるが、負けじと元就を見る。







「女が武芸をすると?笑わせるでないわ。貴様が前田の妻と同じ道を歩むなど言語道断ぞ。夢は寝て覚めろ」
「しかし!女が武芸をしてはダメとは誰も言っておりませぬ!」
「女は家の掃除をしろ」
「では掃除の後は武芸もしてよいと!?」
「貴様は我を怒らせたいらしいな………妙玖……」







 滅茶苦茶な話に互いを見て火花を散らす。元就は負けず嫌いな性格だが、美伊も相当負けず嫌いな性格だ。故に互いが互いに引きを取らない。
 この二人が喧嘩するのは最近では当たり前のことだ。喧嘩するほど何たら〜……とはよく言ったものだ。
 元就は溜め息をこぼし、目線を逸らし、左手で頭をかく。








「妙玖、何故武芸にこだわる」
「……………」
「黙っていては分からぬであろうて」
「…………私も武家の一人です…」
「…………」








 幼子のように拗ねる美伊。元就はその言葉に少し納得してしまったが、やはり女が武芸することには反対だった。
 例えやったとしても護身術程度で抑えて欲しいのだ。






「妙玖、武芸を覚えてどうするつもりだ」
「元就様をお守りしとうございます!」
「…………はぁぁ…」







 盛大な溜め息を吐いた。美伊は「何故そのような反応をするのですか!?」と言うが、元就は無視をする。
 しばし時間を置いてから元就は「美伊」と呼ぶ。たまに二人だけの時に呼ばれる自分の名前に少し心臓が高鳴るが、美伊は返事をする。








「我はここの当主ぞ」
「は、はい。それは存じておりまする。ですが、あなたが死んだら元も子もないので私が………」
「爺と同じ事を言うでない。我の策を疑っておるのか」
「違います!そのようなことは━━」
「なれば…」








 元就は美伊に近付く。ここまで近付かれるのはあまりないため、また美伊の心臓は高鳴る。


 鬱陶しい、と思っていながらも元就の心はどんどん引かれていた。その心になるのを自ら抑えていた。
 自分が扱うのはただの”捨て駒”。その”捨て駒”に惚れる自分ではない、そう思うもののそれは叶わなかった。








「も、もと………なり……さま………?」
「…………」







 この女は不思議だ。

 母によく似ておる。が、それだけではない。








「なれば、我を、信じよ」
「………元就、様」
「我は━━━」








 もう失いとうない。


 守らせろ、美伊









 そう言って彼は彼女を抱いた。



戻るのか
目次に行くのか
どちらぞ



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