第10話  幸福



 それからというもの、美伊は元就が許した時間、昼餉の後の時間に必ず元就の部屋に訪れた。
 元就にとっては溜め息の時間だが、美伊にとってはお楽しみの時間だ。








「元就様、今日は握り飯を再び挑戦して参りました!」
「左様か」
「もう一度、元就様に食べて貰えるようにここにお持ち致しました!」
「…………」








 元就はこの前起こったことを思い出し黙りこんだ。何だかんだで悪かったと思っているらしい。
 だが、それを口にしないのが元就だ。
 美伊は横に置いてあった握り飯を元就の前に出す。三角の形をした、とても美味しそうな白米があった。



 元就はその握り飯に手をつける。美伊は嬉しそうにそれを見守る。
 そして、元就はその握り飯を一口、頬張るように食べた。








「どう……ですか?」
「…………ふん、食えはする」








 元就なりの誉め言葉だ。美伊はフッと笑いをこぼす。
 元就はそのまま握り飯を食べ、手についた米まで食べた。ペロッと米を食べる姿が、美伊には可愛いと写る。 







「……何ぞ、何が可笑しい」
「いえ!可笑しくては笑ったのではございません!ただ、その……」








 愛くるしかった、等言っては怒られるかどうか少し心配した為、少し間が空いた。
 だが、やはり口に出したかったらしく、美伊は言いたいことを元就に言う。








「握り飯を食べて頂いてとても嬉しく思い、とても愛くるしかったのです!」
「…………………は?」
「食べているお姿が…その……可愛くて……」







 真っ赤になった自分の顔を隠し、元就に見せないようにする。
 元就も美伊に言われたことに恥ずかしくなった。







「貴様は我の何を見ておるのだ…」
「申し訳ございません……言いたかったものですから……」








 お互い横を向きながら話す。端から見ればただの新婚夫婦。現代でいう「このリア充め」と言うものであろう。
 元就は美伊の膝元に置いてある握り飯を取り、今度は見せないように美伊がいる方とは別の方を見ながら頬張った。






「お粗末様でした」
「フン」








 今日も毛利家は平和な一日でした。



戻るのか
目次に行くのか
どちらぞ



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -