第4話 独眼竜
━━━数分後
「やぁ!独眼竜!」
「やぁじゃねーよ。また来やがって…。城をそんなに開けて大丈夫なのかよ。大権現様よ」
そう言って政宗はニヤリと笑った。家康は苦笑しながら政宗に近付いた。
「城なら大丈夫だ。まぁ、今日は夕刻までには帰らないといけないがな」
「What?何でだよ」
「ワシも解らなくてな。ははっ」
「なんだそれ…まぁいいや、茶でも飲もうぜ」
「すまんな。頂くよ」
政宗は自分の屋敷に家康を招く。家康も何だかんだで遠慮なしに茶を頂く。こういうことが出来るのは、ほぼ毎日来ているせいでもあるが、信頼出来ないと遠慮なしに出来るものではないのだ。
縁側に座り、二人は茶を交わした。木に鳥が止まり、鳴き声を発する。時期が春前ということもあり、とてもいい鳴き声とは言えないが、逆にそれもまた愛おしいとも思える。
政宗は配管を持ち、それを吹く。家康は湯のみを持ちながら鳥の鳴き声を聞いていた。
「鳴くまで待とうホトトギス……」
「アンタは『鳴くまで待てはしないぞ、ホトトギス』だろうが」
「ははっ、それもそうだが、本当は鳴くまで待ってやりたいところだ」
「言ってるのと矛盾してるっつーの」
「それもそうだな」
「アンタの扱いは慣れねぇな……ったく」
はぁと溜め息をこぼし、また配管を吸う。家康は「そうか?」と言い、また鳥に目をやった。政宗はふと思ったことを口にする。
「そういや、アンタは側室と正室とらねーのか?」
「ん?急にどうした?独眼竜」
「いや…東照大権現様の奥方とか狙ってる奴沢山いるだろ?いねーのか?」
「さぁ………?ワシはそういうのはよく分からなくてな……」
「さぁって……そろそろ決めねーとジジィ達から煩く問われるぞ。俺がそうだからな」
「独眼竜が?ははっ、なるほど。でも、ワシはまだいないよ」
「Hum...もしかしたら、夕刻までに帰れって言ったのはそれ何じゃねぇのか?」
家康は目を開いて政宗を見た。政宗は何かと先を読むことがあるが、まさかな……と家康は思った。
確かに今までそのような話はなかったが、家臣が必ずこの時刻に帰れと言われたのはこれが初めてなのだ。それくらい、家臣は家康を信じているし、家康がこの時刻には帰ると言ったら必ず帰るからだ。
「………いや、まさか…」
「そのまさかだったらどうする」
ニヤリと政宗は不適に笑う。家康は少し冷や汗を流す。まさかそんな時期がくるとは思わなかったからだ。
「……ワシには縁はないと思っていたのだが…」
「んな馬鹿なことがあるかって。大権現になったら今度は跡取りが必要になってくるだろうが。血の繋がった子供をな」
「うーん…まぁ……そうだな…」
「Ah?なんか歯切れが悪いな」
家康は頭をかきながら何か悩んでいた。政宗は少し間をおいて家康の前に立った。
「歯切れが悪い時は、暴れて解消しないとなぁ?……小十郎!」
「はっ」
「独眼竜……?」
政宗は小十郎の名を呼ぶと、小十郎は手元に持っていた六爪を政宗に渡した。政宗愛刀の物で、刀は一つの鞘に3本ずつ、左右合わせて6本あるものだ。
家康は「やはりやるんだな」と言い、笑って湯のみを置いて立つ。
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