第24話  煙鳥翔華



『本当に一日で着くとは……ねぇ……』
「あたしが着くと言ったら着くの」








 女が持つような物ではない籠を背負って葵が「えっへん!」と言うように背を反った。
 一度か二度くらいは休憩するだろうと思ったのが半兵衛の予想だった。が、葵は一度も休むことなく、夜だろうが山道だろうがひたすら歩き続けた結果、次の日の明朝に岡崎城の門前に着いたのだ。
 これには半兵衛は驚きを隠せなかった。この子、本当に女子なのか………?と少し疑う。









「さて、入るよ」
『どうやって?』
「どうやってって、何言ってるの?ここの門から入るに決まってるじゃん」
『ただでは入れないくらい知ってるだろう?』
「知らない!」
『…………』







 葵は半兵衛を置いて真正面から岡崎城の門をくぐろうとしていた。だが、門というのは警備兵がいるものだ。ましてや大権現の警備兵はしっかりしていた。







「待て、そこの女。ここに何用だ?」
「竹千代に会いに来たの。通して」






 槍で通行止めをされ、審問を行う。これは普通のことだが、決して通さないわけではない。予め言っておこう。
 だが、葵はただ家康、しかも幼名で言って通して貰おうとした。それだけで通れると思っていた。それは大きな間違いだったことをこの後で思い知らされる。






「竹千代様って、何故貴様は家康様の幼名を知っておるのだ」
「何でって……幼なじみだから?いや、友達?とにかくそういう関係だから通してよ」
「ならん!そう言って暗殺しようとした者は幾人もいたのだ!通すわけにはいかない」
「何でよ!」
「おのれ、家康様は私たちが守る!貴様はさっさと去れ!」
「嫌だね!!何のためにここまで来たと──」
「皆の者ー!!!曲者だ!曲者が家康様を狙っておるぞー!!」
「はぁ!?ちょ………!やめて!!」







 槍で葵を押し倒し、手は片手ずつ兵によって拘束され、無理矢理門を通る羽目になった。色んな意味で門をくぐることに成功したものの、これではまるで葵自身が家康を殺しに来たと言ってるのと一緒だった。
 このままでは兵達に殺される…!そう思った葵は浮かされている足を使い、兵を蹴った。普段荷物を送ったり、畑を耕している足はそれなりに鍛えられている。(細身だが)そんな攻撃を、兵は横腹で受けてしまった。







「がっ……!!」
「きっ、きさまぁ……!!!」







 離れた手の拘束が解けると、急いで走ろうとした。このままでは殺される、それが頭から離れなかった。
 だが、葵の体力は限界が来ていた。夜も寝ることをしなかったおかげでここにいるわけだ。そのせいで身体が睡眠を欲していた。
 葵は目が重くて目の前が真っ暗になりそうになるものの、必死にそれを堪えて歩こうとした。







「その女をひっ捕らえろー!!」







 あぁ、もうダメだ。らしくもなく諦めかけたそんなときだ。






「どうしたんだ、皆。朝から騒がしいぞ?」
「家康様!!危のうございます!その女から離れてください!!」







 そして彼女は何だか暖かい何かに触れられ、その中に包まれた。だが目がもう限界のため、そのまま意識を手放したのだった。
 懐かしい匂いとと共に、夢に持って行った。





















「変わってないな」



戻るか?
それとも
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