第22話 海神の巫女
一晩、一頻り泣いたあと、あたしは覚悟する。
それは、この村から出て行くことだ。
村の人にそれを言ったらかなり猛反対された。理由はあたしがここから出たことないことと、行き先があまりにも無謀すぎるということだ。
だが、あたしがこれをする、と決めたからにはちゃんと聞きたいんだ。彼の考えを。
目指すは岡崎城。徳川家康。
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「………で、何であんたもいるのよ…」
『岡崎城の場所知ってて言ってるのなら僕は消えてもいいんだよ?』
「いや……そこじゃなくてさ…」
どうして朝っぱらからこの幽霊はいるんだ……
半兵衛が幽霊と分かったのは爺ちゃんから発つ前に聞いたからだ。
半兵衛を知っているか、と言うと爺ちゃんが真っ先に反応をして
「あぁ、今は亡き豊臣秀吉の右腕と言われた軍師・竹中半兵衛のことか?最も、豊臣と共に死んだって噂さ」
と言った。つまり、今あたしの横にいるこの人物は幽霊なわけだ。それだと昨日突然姿を消したり、こうして現れたり、物を出したり出来るのも頷ける。
驚かないあたしは少し感覚が狂っているのだろうか…。まぁ、昨日の今日だし、驚かないんだろうね。そう思っておこう。
『君のお爺さんは物知りだね。あんな辺鄙な村なのに』
「辺鄙って言わないでよ。せめて小さな村って言え。一応、あの村から収穫した米を城下町に送っているし」
『へぇ。でもやっばり辺鄙だね』
「人の話聞いてたか?」
小さな村って言っただろうが……。とりあえず今は半兵衛と共に山を登っていた。
岡崎城があるのは山二つ超えた先にあるらしい。あたしが目指す城………そして、今は《徳川家康》の名になった竹千代がそこにいる。
どんな場所なのだろうか。それを想像すべく、空を眺める。城なのだからきっとでっかいのだろう。それも天下を手にした男の城だ。他のと比べるなんて比ではないだろう。
『楽しそうだね、葵くん』
「……………悪い?」
『ううん?けど、佐吉くん、もとい三成くんを手に掛けた相手だよ?』
「…………」
久々に会えるという嬉しい反面、佐吉のことを考えると複雑な思いが募る。だが、それでも会いたいんだ。
それが、あたしの決断。
「爺ちゃんと婆ちゃんが丸二日かかるって言ってたけど、一日で行くよ」
『僕は構わないけど、君の体力が持つかだね。葵くん』
「持たせるんだって!」
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「………あら?」
「どうされましたか?姫御前」
ここは伊予河野の地。この伊予河野には隠れ社がある。そこに一人、「海神(わたつみ)の巫女」と呼ばれる少女がいた。
「これは家康さんに伝えなきゃいけません!」
「え?あの、話が分からないのですが……あっ、姫御前ー!」
巫女は愛刀ならぬ愛弓を持ち、「ビューンと行きますよー!」といって飛んでいったのだった。
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