第21話  純白可憐





「………?」
「どうした、家康」









 誰かが自分を呼んでいたような。そんな感じがして家康はふと外を見るが、そこには誰もいないと同時に呼んだ気配も消えていた。
 気のせいか、そう思い元親と慶次に「いや、何でもない」と笑いながら言う。










「あー、やっぱ恋の話はいいねぇ!こう……胸が高鳴るっていう感じ?」
「俺にゃぁさっぱりだがなぁ」
「えー!!元親分かんない!?胸が高鳴らない!?」
「いや、全く」
「元親はもっと恋をしなきゃだよ!!いやホント!」









 慶次が恋のことについて熱く語っていれば、正反対に全く恋について分からない元親。家康に関しては苦笑いしていた。家康の正直なとこを言えば、恋等の類を全く理解していない。
 ただ、正室として迎えたい人と言えば葵が思いつくだけなのだ。謂わば、野生の感というものなのだ。
 だが、それには躊躇してしまうのだ。三成、もとい佐吉と葵と遊んだ日々が思い出され、次に会うときどのような顔をして会えば分からないのだ。
 そんなことを考えて少し下を向いていれば元親が口を開く。









「……アンタはどこか自負しているとこがあるが、じゃあ石田と戦っていたときはどんな気持ちだったんだ?」
「…………」
「石田は真っ直ぐすぎてすぐに間に受けて人の……というより、大猿と雉の悪口を言えば反逆者扱い。アンタはそれを受け止めてしまって自負する。ハッ、考えれば正反対な性格だな。だが─」









 元親は続けて家康に言う。








「どっちも自分が傷ついてもいいと思いながら守っていた。ただ守るものが違った、ってとこか?」
「あー、確かにそうだよねぇ」
「ま、今になって考えたらってヤツだ。西軍にいた俺が見て感じた話だからな。けどよ、家康。今のアンタはその石田を倒し、天下を我が者にしたヤツが何を考えることがある?」









 家康はただ黙って聞いた。天下を確かにこの手に掴み、一時的ではあるが平和な世の中になった。三成を倒して得たそれは自ら欲したものだ。








『貴様が秀吉様の下で共に天下を見ると思っていた私が憎い……!!』











 己はそれも背負い続けていくと決めていたのではないのか。自問自答を繰り返しては繰り返し、何度自分は今までしてきたことを悔いたことか。
 そして、葵のこともそうだ。これから会うとなったとして、彼女は自分がやってきたことを認めてくれるだろうか。………いや、きっと泣いてしまうのではないだろうか。
 そして、家康が最も恐れている最悪なことにならないだろうか。








「…………ワシがしてきたことは間違っていたのだろうか…」
「……………間違っている間違っていない、なんてないと思うなぁ」









 ふと慶次が言う。慶次は胡座をかきながら両手を頭の後ろに回す。一つに纏めている髪を少し邪魔くさそうに撫でてやればサラッとした髪が流れる。








「俺さ、思うんだ。秀吉が死んだとき、俺は家康に何で秀吉を討ったのか聞きたかった。けど、何が良くて何が悪いかなんて人には分かりはしないんだ。人間は自分の目的を達成したいからそこを目指すんだよ」








 懐かしむように慶次は天井を見上げればふと思い出される思い出たち。フッと苦笑いすれば元の目線に戻す。








「秀吉に聞きたいことが沢山あったんだ。半兵衛にも、聞きたいことが沢山。俺はそれが達成されなかったから悔しかった。……友垣だったから余計にね。だから家康と会うのを躊躇していたし、聞きたかった。……けど、家康と話して分かったよ。家康、あんたは秀吉とは違う日の本の未来を見ていた。俺はそれを見たいと思った。だから俺はあんたに着いていった。まぁ孫一が東軍に行ったっていうのが一番の理由だけどね!」









 最後の一言さえなければ良い言葉だったのによ、と元親が言えば家康と慶次は笑い出す。


 皆誰しもが持つ”目的”。それを目指すために手段を使わない人もいれば、その逆の人もいる。人間、誰しもが持つそれは今家康の目の前にいる二人にも言えることなのだ。



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それとも
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