第19話  蒼烈瞬躙






「……誰だ?」
『僕は………半兵衛だ。教えはいらないかい?』
「えっ、…………あ、お願いします」
『ははっ、そう固くならなくてもいいよ』









 男は半兵衛と名乗った。笑う姿は無邪気で、無防備という言葉が似合いだろう。
 葵は急に出てきたこの人物に少し驚いたが、悪い人ではないと思い、囲碁を教えてもらうことにした。

 先攻は葵、半兵衛は後攻となり、地面に石を置いていく。









『………………ふむ、庶民の碁盤は小さいね。ちゃんとしたものを出そうか』
「そんなこと言われてもこの村にはないけど…」
『あぁ、大丈夫だよ。僕が出すからさ』
「どうやって?」
『こうやってやるんだ』








 そういうと半兵衛は碁盤をどこからか出してきた。音で言うならポンッという音が似合いだろう。葵は驚いて半兵衛を見たが、半兵衛は何くわない顔で基盤を置いた。








『この身体でこの世界に降りると何でも出来るんだよね』
「え?」
『いや、何でもないさ。さっ、やろうか。あ、石はこの黒い物でするからね』
「え…あ、あぁ……」
『僕は白い石だからね』
「は、はい………」








 パチン、パチンとさっきまで鳴らなかった音が鳴り響く。升目(ますめ)も先程よりかなり多くなったので少し戸惑ったりしたが、葵は黒い石を升目の上に置いていく。







「(こんなに升目が多いのは久々……)」








 身体が覚えている通りにやっていけば昔のことを思い出す。
 だが、いつの間にか半兵衛が優位になっていき葵は段々と苦しい顔になっていった。葵の手が止まったのは言うまでもない。







『おや、終わりかい?』
「ま、まだ………」
『フフッ、そうかい?………あぁ、そこに置かない方がいいよ。僕が更に有利になってしまうからね』
「ゔっ………」







 半兵衛にそんなことを言われれば腕を組んでまた考える葵。とても女がする姿ではない。







『それにしても、さっきの地面に書かれたものではない囲碁なのに、よく分かるね。どこかで習ったかのようだよ?』
「え?あぁ。昔はよくこの上等な囲碁盤でやってたから」
『へぇ?何処でやってたんだい?』
「んー…………名前は知らないと思うよ。名を轟かす程の力は持ってなかったし」
『そうなのかい?あ、そんな所に置いたら更に僕が有利になるよ』
「え゙っ」










 慌てて先程置いた石を手の中に戻す。半兵衛はクスクスと笑いながら「こっちをお勧めするよ」と升目のところに指を置く。葵は「おぉ、こっちか」と嬉しそうにそこに自分の石を置く。また半兵衛が笑った理由は分からないまま。







『そうそう。それを置いてくれたら僕はさっき君が置いたところより有利になるんだよねぇ』
「なっ!?卑怯だ!!!」
『僕は策略派なのでね。フフフッ』
「ゔー………」








 葵が頬を膨らまして睨むので半兵衛は笑いを堪えていた。その葵はまたもや腕を組んで盤と睨めっこをした。








『君はその囲碁を習った家の姫君だったのかい?』
「あたしみたいなのが姫君だったら笑われるだろうね。あたしはただ遊びに行ってただけだよ」
『そんな易々と入れる家だったのかい?』
「んーん。あたしはそこの城主の隠し子らしかったよ。だから自由に入れた」
『何で”らしかった”なんだい?』
「……………もうその城は無くなって、城主も死んだから。あと、あたしは母から聞いただけだから確かではない。まぁ、その母も同じ日に死んだからもう聞くのは無理だけど」
『……………』








 葵が考えに考えて石を盤にパチンと置く。半兵衛はしばらく葵の顔をじっと見ていたため葵が石を置いたことに気づかなかった。







「おーい、次半兵衛の番だぞー?」
『…あ、そうだね。うん、囲碁はこれで終わらそう』








 半兵衛の一手で囲碁の勝負は決まった。葵は「あーっ!!」と叫んで悔しがった。
 それとは裏腹に半兵衛は笑ったが、すぐにそれはなくなった。








『あのね、葵君。君に言っておきたいことがあってここに来たんだ』
「うぅー………囲碁のことだろ?」
『それは口実さ。もっと、君にとって大事な話だよ』
「……?」








 葵は首を傾げて半兵衛をみる。
 囲碁のことも教えて欲しいものだが、それよりも大事なことなのだろうか。
 そんなことを思いながら半兵衛を見ていた。間を置いてから半兵衛は目を閉じ、それを開けてから葵に伝える事を伝える。








『君の記憶の中に竹千代君と佐吉君があるよね?』
「!」
『君は、どちらを選ぶんだい?』
「え?」
『その答えによって僕は別々の答えをあげるよ』
「ちょ、ちょっと待った!何の話よ?!急に話が変わり過ぎて訳分かんないんだけど!………それと、何で竹千代と佐吉のことを知ってるのよ……半兵衛はあの二人の何なの?」
『…………ふぅ、質問が多いね。僕には時間がないんだ。一つ一つの質問には答えられないけど、一つ言えることは、二人は僕と秀吉にとって良き武将兵士だった、ってことかな』



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