第11話  凶王三成





「佐吉と竹千代元気かなぁ」
「何かいったか?」
「いんやー。ただの独り言だよー」



 そういって葵は手伝ったお礼としてもらった作物を籠に入れ、自分の家に戻った。
 彼女はたまに思い出す。昔、この村に来て数日したとき、彼らと遊んだことを。そのときが、実は一番楽しかったことを村の人々は知らない。








 彼女がやっと12になるころ、葵はこの村に突如やってきた。走り続けたせいか、息は荒くその場にへたり込んだ。とても綺麗な、彼女の身体には大きい青い羽織を羽織っており、最初村の人々はどこかの城から逃げ出した姫かと思っていた。この村は人があまり通らないため、そういう人がよく逃げ込みにやってくる。
 決定打は青い羽織。こんなに綺麗な羽織はいくら稼いでも足りないであろう生地で作られており、城の者でしか手をつけられない上物だったのだ。

 そう思った村の人々は様子見で、彼女を村に迎え入れた。しばらくしたら従者の者が来ると予想して。
 だが、数日後、この村に来て、且つ彼女に用があると申したのは小さな男の子二人だけだった。彼らは従者というより、友達感覚で遊んで、しばらくしたら帰るということを何日かした。が、パタリと彼らは来なくなった。



「ねぇ、佐吉と竹千代はまだ来ないの?」



 彼らの名前であろう名前を葵は口にする。もちろん、村の者はいつ来るかなど知りはしない。

「あっしらも分かりません」

 そう言うしかなかった。その都度、葵は俯き「そう…」と寂しげに言い、川のほうへ行きしゃがみ込む。これがひと月ほど続いたという。




「………どこいったの?佐吉…竹千代ぉ…」




━━━それから8年。葵は20。きっと佐吉と竹千代は22くらい。8年も会ってくれてない、と少し思い出しながら葵はぼやく。



『………仕方ないか。世は戦国。……はもう終わったんだっけ。家康って人のおかげで』


 そう思いながら葵は空を見る。そして、ついため息をこぼす。
 戦が終わったのなら何故佐吉と竹千代は来ないのだろうか、と。




「……………もう一回でいいから、会いたいなぁ…」




 少し男勝りな葵が、女として思った気持ちであった。


「あ、今回の牛蒡(ごぼう)美味いな」



戻るか?
それとも
目次に行くか?


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