第9話  長曾我部元親







 幼い頃、ワシと三成……竹千代と佐吉が青い鳥をみた。その青い鳥は空の色と同じくらいの青色で、初めて見る色だった。
 とても美しかった。言葉が出ないくらいに……。







 場所は港、より少し離れた舟場。家康が友と呼ぶ者がそこにいた。



「よぅ!家康!アンタが直々に迎えに来るたぁ思ってなかったぜ」




 男達に囲まれていながらもその存在感は圧倒的だった。
 銀色の髪に、紫色の羽織り、左目を紫色の布で覆い隠し、刃の先が碇のような形をしている大きな槍。彼が家康の友である ”長曾我部元親” である。
 元親は船から飛び降り、家康の方へ足を運んだ。




「やぁ、元親。元気にしてたか?」
「ったりめーだろ!じゃなきゃ、ここには来てねぇって」



 ははっと笑いながら元親は言う。家康もつられて笑う。



「おっ、そういや、今朝大量に魚が手に入ったんだ。アンタにやるよ、家康。ちょっくら待っててくれ」
「えっ!元親、そんないいぞー………って行ってしまったか」



 家康の言葉を聞かずに元親はまた船に戻って行った。




 長曾我部元親は四国を統一した大名でもあるが、彼は堅苦しいことが嫌いで、海を放浪していることが多い。「西海の鬼」と自称していたが、いつの日か威名となり、海賊になっている。元親の兵達は皆元親のことを「アニキ」と呼んで慕っている。元親自身、子分の面倒見も良いため、四国の村の人々からも慕われている。

 この元親、家康の友であるが、実は関ヶ原の戦いでは家康とは反対側の西軍に付いていた。
 その理由は、元親が留守の間に、四国が壊滅の危機に陥ってしまったのだ。四国に落ちていた旗は《三つ葵の紋》。徳川軍の旗だったのだ。




 それを知った元親は、正に鬼の如く、荒れた戦い方をした。

 だが、『雑賀孫一』という女武将のおかげで、四国壊滅の危機をしたのは家康ではなく、違う者だったというのが分かったのだ。
 一歩道を外せば、無罪の家康を殺すところだった元親を救ってくれたのだ。
 その後、元親は家康に謝り、家康は謝らなくてもいいと言ったのだが、元親自身が自分を許せないらしく、家康に謝罪という形でいつも物などをあげているのだ。



「ほらよ、これをやるよ」
「ありがたい。だが、元親」
「何だ?」
「もう、これはいい」
「海老が入ってないからか?」
「いや、そういう意味ではなく……」



 少し苦笑いしながら家康は元親に言う。目を逸らさず元親の目の奥を覗くように。



「もう謝罪はいらない、そう言っただろう?」
「…………………」



 家康は優しく元親に微笑む。元親は黙り込み、しばらく沈黙が続いた。元親の兵士たちが船から降りる音が妙に大きく聞こえる。



「………家康」



 沈黙を破ったのは元親。家康は「何だ?」と問いかける。目を伏していた元親は前を向く。



「俺は本当にアンタにひでぇことしたんだぞ?」
「だからそれはあの時の約束で終わっただろう?違うか?」




『ならば、死ぬまでワシの友でいてくれ』
『当たりめぇだ!』




「それだけで十分なんだ」


 そう言って家康は笑いかける。元親は今にも泣きそうな顔で、だが、友の前で泣くわけにはいかないという意志から顔を俯かせ、涙を拭った。そして、小さく「すまねぇ」と言った。家康は元親の肩に手を乗せ、左手で背中をさすった。


「だが、これはもらってくれ。謝罪じゃなく、今は贈り物としてな!」
「あぁ、分かった」








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