「やれすまなんだ」
「いえ」
「ぬしもすまぬなぁ、ヒヒッ」
「いいよいいよー、気にしない!」
「ヒヒヒッ」
吉継独特の引き笑いに少しも臆することなく話す日菜。慶次は車椅子を押して付き添いをする。
行き先は屋上。三成が未だに叫んでいるところだ。
秀吉にも頼まれたこともあって日菜は吉継と慶次と共に行く。
様々な患者が行き来するエレベーター前の大通り。松葉杖で歩行する人もいれば、吉継のように車椅子で移動している人もいる。
特に多いのが病服である。入院している人が着る服のことだ。その格好で私服で来ている人と対面して話している人も結構多い。
そういう人たちもエレベーターに乗ろうと日菜たちのように立ち止まり、日菜たちと一緒にエレベーターに乗る。
エレベーターは1階毎にほぼ止まるため、なかなか日菜たちが目指す最上階までたどり着かない。1秒でも早く目的地に到着するためドクターの人や看護師も利用するのだ、仕方がないと割り切らなければならない。
「(でも、あの人はすぐに屋上で叫びだしたなぁ)」
ふと考えれば不思議なことだ、と日菜は思った。自分らでさえ最上階行くまで時間がかかるのに、どうやってあっという間に最上階まで行ったのだろうか。
「ねぇ、あなた達は叫んでいる人の友達なんでしょ?」
「うん、まぁねー」
「そうよ友よ、トモ。ヒヒッ、それがどうしやった」
「あの人はどうやって最上階まで行ったのか知ってるの?」
「「恐惶」」
「きょう……こう…?」
「マァ、いずれ分かることよ。ヒヒヒッ」
「…………?」
━━━5分後
ようやく屋上前の扉ににたどり着いた3人は一息つく。
そして、日菜が扉を開けると、生暖かな風と青く澄み渡った空が出迎えた。室内の中にいたせいか少し太陽が眩しく感じられ、日菜は目を細めた。
━━━━━━
季節は夏。月日でいえば7月半ばだ。蝉たちの大合唱が鳴り響き、一層太陽の暑さを強まらせている気がする。
そんな中、叫んでいる人が約1名。彼は叫びながら考えていた。これからどのように彼女と向き合うべきか。今までの記憶を失った彼女とどうやって向き合うべきか。しかし、答えは一向に出てこなかった。
三成は柵に手をかけ、少しそれに寄りかかるように身体を預ける。
「日菜……」
流れない自分の汗に苛つかせたのはこの日が初めてだった。
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