「隣に越してきた片倉小十郎といいます」
「あら、もう挨拶とは早いですねぇ。私は名字家の母なんです。分からないことがあれば何でも言ってね」
「ありがとうございます。……あ、政宗様、こちらに来てください」









 小十郎の後ろ足を掴みながら恐る恐る出てくる政宗。名前の母は「こんにちわ」と挨拶すれば、ぺこりと恥ずかし気にした。人見知りなのだろうか、と名前の母は思い政宗の頭を撫でた。小十郎以外、あまり頭を撫でてくれることはなかったため、少し胸の奥がこそばゆくなった。








「片倉さんのお子さんですか?」
「あ、いえ、この子は訳あって俺が見ているんです」
「あら、そうなの?……私の家にも1人政宗くんくらいの娘がいるのよ。ちょっと待ってね。名前ー!ちょっと降りてきてー!」









 その呼びかけに応えるように、階段を座りながら移動して慎重に降りてくる女の子の姿があった。政宗は「あ……」と小さく声を発した。それはさっきまで窓際で話していた(というよりは彼女が一方的に)彼女だったからだ。








「あっ、おとなりしゃん!」
「あら、知ってるの?」
「さっきまどではなしてた!けど、こわいひとがきたからやめたの」








 話の状況をのめない母親は首を傾げるが、その後ろにいた小十郎は冷や汗を流し、それを細目で見る政宗の姿があったのは知る由もない。








「こんにちわ!」
「あ、あぁ。こんにちわ」








 名前が駆け寄ってきては小十郎に挨拶したので、小十郎は少したじろいだ。
 あの時、窓際で話していた名前は急にドスの利いた声を聞いただけであの場から去ったのだ。実際その声の主は知らないのが公を制した。
 政宗はさっきより一歩前に出てきては少しうずうずと体を動かしていた。







「政宗様、もう少しお待ちを」
「う、うん……」
「ねぇ、おかさん。このことあそんでもいい?」
「ん?良いわよ。政宗くん、名前と遊んであげていいかな?」
「えっ!」









 こっちから誘おうと思ってたことを相手から言われたので少し戸惑ってしまう政宗だったが、小十郎が背中を押してくれたおかげで一息飲んでから「遊ぶ!」と言った。名前からは笑顔が出てきて、スタタと早歩きでサンダルの置いている玄関まで行った。







「じゃあいってきます、おかさん!」
「こじゅーろー、いってくるぜ!」
「気を付けてねぇ。あ、暑いから麦わら帽子被りなさい。あと、水筒ね」








 名前の母はいつの間にか用意されていた麦わら帽子を被らせ、水筒を肩にかけさせた。それと一緒に小十郎も政宗に青いキャップ帽子を被らせた。
 それからすぐに名前と政宗は暑い真夏の炎天下に行ったのだった。








「あ、これをどうぞ。口に合うか分かりませんが」
「あらっ!ありがとうねぇ。…………これ、特上ハムじゃないの?!」
「あ、いえ。ただの食べ物です」







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