「ここかな」








 立て札には「1020号室」と書かれたものがある。ここだ、不思議な患者がいる場所は。
 僕はドアノブに手を置き、部屋に入る。







「失礼するよ」
「!」







 彼女は突然の訪問に驚いたようだ。あぁ、いいね、その驚いた顔。フフ、日菜君と同じくらい面白いよ。………まぁそんなことは言わないけどね。
 彼女がどうやら今回の患者のようだ。見た目からしたらただの子供だけど……








「こんにちわ。今回担当させていただくことになった竹中半兵衛だよ。君の名前を教えてもらってもいいかな?」
「…………名字名前です」
「うん、ありがとう。よろしくね」
「はいっ」







 うん、元気な子だ。どこが悪いのかが分からないけど。


 時刻はお昼の12時を回ろうとしていた。その時、彼女は不思議な言葉を僕に言ってきた。








「あ、そろそろ”変わる”時間だ」
「え?何が?」
「先生、驚くかもだけど”もう2人”とも上手くやってね?」
「…………?」
「明日の朝も先生ここに来るの?」
「………え、あ、うん。しばらくは僕が担当だからね」
「よかったぁ。先生とはもっとお話したかったからうれ……し……」









 急に名字君は意識を失ったようにパタリとベッドの上で倒れた。僕は驚いて慌てて彼女の元に駆ける。身体を揺らすも反応はなかった。
 何だ………?何が起こったんだ……?








「大丈夫!?ねぇ、ねぇ!」
「………………ん…」








 あっ、やっと反応した。よかった、とホッとした瞬間、彼女はいきなり飛び起きてベッドの上に立った。そしていきなり━━









「うぉおおおおおおおお!!!!某の出番ですぞ!親方さむぁああぁあああああ!!!」








 叫びだした。

 親方………さむぁ?親方様って言いたいのかな……?
 今さっきの彼女とは一変して僕は言葉を失ったまま、ただ彼女を呆然と下から見るしか出来なかった。すると、彼女(?)はこちらを見て「おぉ!?」と何か珍しい者がいたと言う感じに僕を見た。








「貴殿は………もしや軍医の方でござるか!」
「(軍医って……)……軍医ではないけど、医者であることには変わりないよ。名字君…………だよね?人柄変わりすぎてないかい……?」
「むっ、名前殿は何も言わずに”変わられて”しまったのか?」






 すると彼女は独り言のように「成る程……」や「あ、誠でござる…」と言っていた。
 「貴殿」や「某」など、先程の彼女が使うとは思えない言葉を発している。いや、これが本来の彼女………なのか?
 いや、違う気がする。さっき「名前殿」と言っていた。………それでもおかしい。何故彼女が彼女の名前を言う必要がある?
 そう、まるで別の人物が『最初の彼女の』中に入っているような、そんな感じだと思う。(よくは分からないけど……)








「えっと、貴殿の名は竹中殿でござるか?」
「……ん、あぁ、そうだよ」
「この怪奇現象を治せる者なのでござるか?」
「うん(?)。……僕は医者だから原因究明をして治せるものなら治したいと思うよ」
「おぉ!そうでござったか!これは失礼仕ったでござる」









 そう言ってベッドの上で頭を下げた。…………さっき「怪奇現象」と言っていたけど、やっぱりこのいきなり性格(というより人格)が変わったことかな…?


 これは……………予想よりも難病っぽいねぇ……。
 少し汗が頬を伝ったのは言うまでもない。








「………その言い方だと、”君ら”でいいのかい?」
「はい。しかし、某の名はござらぬ。今は名前殿の名を借りて過ごしているのでござる」
「ほうほう。………もっと聞かせてくれるかい?君のことを」








 カルテにメモ書きを残しながら”今の彼女”を調べる。

 看護士がカルテに書いていたことは強ち(あながち)間違っていない。確かに性格が変わった。だが、彼女の場合『人格が変わる』と言った方がいいと僕は思った。
 それに、”今の彼女”が言った「怪奇現象」。彼女自身が分かっていたらそんな言葉は使わないはずだ。「多分これが原因」とはっきりと分かっていれば病院なんて行かなかっただろうと僕は思う。
 …………いや、この病院は少し変わっているから入院なんてさせることが出来るのもあるかも…。普通、こんな現象は「分からない」で終わって入院なんてさせないと思う。(多分)









「竹中殿?」
「あぁ、大丈夫だよ。そうだね……君は何の食べ物が好きなんだい?」
「団子でござる!!特に三食団子は良き品でござるぅ……!」







 団子のことを考えると彼女の目が輝いた。空想で描いた団子を想像するように虚空を眺めながら。(余程好きなんだねぇ…)








「……………一応聞くけど、性別は女かい?」
「名前殿は女子(おなご)でござる!しかし、某は男の身でござる」
「えっ!?ま、まぁ、女の子が某とか言うのに少し抵抗はあったけど、まさか本当に男とは……」
「多分!」
「何で多分って言うかなぁ……」









 引き気味に顔の口角を無理やり上げる。何だかもの凄くあやふやな存在なんだなぁ………
 とりあえずカルテに書き留める。その間に名字君が「何書いているのでござるかー?」と聞いてくるが、軽く無視した。(本当は患者の話は無視したらダメだからね?)








「そうでござる。竹中殿、夜にまたここに来られるのでござるか?」
「ん?そうだね、君と変わる前の名字君が2人をよろしくね、って言われたものだからね………………って、もしかして夜に”もう1人”の人格が出てくるのかい?」
「そうでござる!竹中殿は賢人なお方なのでごさるな!」








 すごいでござる!とにこやかに言われた。この笑顔を見るとやはり外見は女の子なのか、と思わされる。
 この子の中身はどうなっているんだ?


 僕が興味を引くには充分な問題だね。








「竹中殿ー」
「何だい?」
「走って叫んで槍を持って修行がしたいでござ━━」
「ダメ」
「殺生でござるぅううう!!!」
「ダメ」
「そこを何とかでござ……」
「………………」
「申し訳ございませぬ……」
「うん、分かったんだったらいいよ」








 半兵衛の満面の笑みで睨まれ怯む(ひるむ)名前であった。







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