「チカくん!私を置いていかないでぇ!!」








 砂川は猫撫で声で元親の元に駆け寄った。普段ならこれで男がコロッと落ちてしまうような声だ。
 だが、元親は砂川の肩を掴んで離そうとする。それに抵抗して砂川は元親にまた抱きつく。それを見ている名前は何故か胸がギュッと苦しくなるのを感じた。







「私、チカくんがいないとダメなの…………お願い、傍にいて……?」
「………………」








 「ね?」と可愛らしい声で言って元親を見つめる。名前も元親より低いが、砂川は名前より背が低いため元親をより見上げる形になる。名前は何故かズルいとまで思ってしまっていた自分がいたことに驚きを感じた。
 砂川と元親は恋人同士だ。だから何もズルいことはないはずなのだ、と自分に言い聞かせるものの余計に胸が苦しくなった。名前は心臓辺りにある服をギュッと掴んで抑え込もうとし、その場に座り込んだ。







「…………これじゃあ私、どこぞの恋愛漫画の片想いする人みたいやん……そんなん………イヤや…………私の理想とちゃう……」







 誰かこれを静まらせてくれ、そう懇願する名前。辛いのと苦しいのはもうゴメンだ、と心の中で叫ぶもそれは誰にも届かない。
 そうしている間に砂川と元親の方で動きがあった。
 元親は先程よりも強く砂川の肩を持ち、そして引き剥がした。あまりの力強さに驚き、砂川はしばらく硬直してしまった。その隙に元親は歩みだした。向かった先は───







「大丈夫か?たてるか?」
「………え?あ、うん」







 名前のいる所だった。元親は座ってしまっている名前の手を取るために 自分の手を差し出して名前を立たせた。 少しバランスを崩してしまうものの、元親がしっかりと名前を支えたおかげで倒れずに済んだ。
 一方砂川は、彼が名前の元に寄る姿を見て何かが 恐れる音がした。 そしてさらに 追い討ちをかけるかのように彼は彼女に抱きつく姿を見てしまい、 全てが壊れ狂ったように笑い出した。







「ははっ…………あははははっ!!何それ!?ちょーキモいんですけどー!!」
「……は?」
「さ、砂川………さん…?」
「いやーっ!あんたのその声であたしの名前呼ばないで!あたしの名前が汚れてしまうわ!」







 耳を塞いで名前の声が聞こえないようにし、また狂ったように笑う。────一頻り(ひとしきり)笑った後、何かが抜けていったように手をだらんと下げる。そしてまるで人形のように名前達の方を見る。その顔は酷く、人を見るような目ではなかった。







「何あんた?溝鼠以下の何者でしかないのに何なの?あたしみたいな可愛い綺麗なコウノトリを食べて美味しい?鷹のようにカッコよくて孤高な彼を手に入れて幸せ?ねぇ」
「え………いや、食べてないねんけど……あと長曾我部くんを手に入れたって何───」
「黙りなさい!!!」







 急に大声で叫んで言われたため、ビクッと目を見開いて驚く名前。だが、元親は黙ってそれを聞いていた。
 砂川はまた叫ぶ前の顔になって話を続ける。







「あんたのせいであたしの計画は全部台無しよ…………折角これからもっと良い関係を築いて長曾我部グループもあたしの者にするつもりだったのにさぁ……」
「ちょ、長曾我部グループ……って何やねんそれ……まるで大手企業の名前やな…………(聞いたことないけど…)」
「大手企業じゃねぇが、俺の家はヤクザが取り仕切るような家なんだよ」
「へぇ、そんなん……………………………はぇ!?えっ、何それ?!ヤクザが!?あっち系!?」
「落ち着け……」







 あわあわと名前は混乱したし、落ち着こうにも落ち着けない状態になってしまった。が、それはすぐにそれはなくなる。
 何故なら砂川の機嫌がすこぶる最悪な状態になり、まるで瞬間移動したかのように一瞬で名前の前まで行き、髪を思いっきり引っ張ったからである。







「いっ…………!」
「!?名前っ───」
「ねぇチカくん。何でこの女なの?こんなやつ、話にならないし、あなたに釣り合わないよ?あたしならその才能を生かせてあげられるよ?あなたの好きな、色んなものを壊せるよ?ねぇ、この手を取って?」
「……………」







 砂川は片方の手は名前の髪を引っ張り、もう片方の手を元親に差し出した。名前は髪を引っ張られて痛いと思いながらも砂川の話を聞いていたが、訳が分からなかった。
 元親の好きな色んなものを壊せる、その言葉に引っ掛かり、名前は砂川に突っ掛かった。







「……っ、………ちょ、長曾我部くんはそんな人じゃないやろ!色んなものを壊すってどういう意味なんや!!」
「あ?……あぁ、あんた知らないの?まぁ表では何もやっていないただの転校生だったものね。………じゃあ聞かせてあげる」
「…………やめろ…」
「チカくんの前の学校ではこう呼ばれていたのよ」
「言うなぁ!!!」












「"西海の鬼"と呼ばれ、沢山のものを壊してきた学校の問題児だったのよ」







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