陽炎陽和





※死ネタ・血表現注意※





















「…………どうすれば、彼は…死なないのですか…?」
「あなたが    の代わりに━━━━」
「……それしか、ないのですね?」









 陽炎はコクリと頷き、彼女は顔を拭き、また別世界の同じ時間に陽炎が飛ばす。


 あぁ、またあなたと━━━━



























 5月19日 午後12時



 今日も昨日と同じくらいの暑い日だ。寒いよりはいいが、こうも暑いとやる気をなくしてしまう。
 はぁ、と溜め息をこぼしベッドの上で横たわる。右手に持っていた携帯を見て時刻をみる。時は既に昼の12時を過ぎていた。あぁ、だからこんなに暑いのか、と納得してしまう。





 カチカチと徐(おもむろ)に携帯のボタンを押し、アドレス帳を開く。そのアドレス帳の中にある1人の名前を選択する。

 その名前は『鶴の字』

 そして、俺は鶴の字に電話を掛ける。









プルルル───
















━━━━、「あ、俺。……ンだよ、アンタも暇だろ。…………ん。……あぁ、んじゃいつもの公園で。…………………あ?おめぇさんも遅刻すんなよ?………遅刻したら」









 罰金、と同時に言う。俺にとってこのやり取りが普通であり、同時に言ったことにより少し笑えた。
 電話を切り、ベッドから勢いよく起きあがる。部屋から出て、誰もいない家に「行ってきます」と言って出掛けた。





 目指すは公園。いざ行かん


 なんてな。
















 5月の中旬だと言うのにやはり日差しは強い。もうすぐ初夏が始まるのか、改めてそう思わされる。
 子供1人といない昼の公園。変な感じだ。俺はブランコに座ろうとブランコに近付く。ガキの頃はちょうど良かったブランコは今では小さい。こんなに小さかったっけ、と思う。


 数分後に鶴の字がやってきた。何故か猫を抱えながら。










「よぉ。…………猫?」
「猫さんではありませんよ。子ぎつねです」
「子ぎつね?また珍しいヤツを抱えてくるなぁ……」
「そうですか?」








 猫ではなく茶色の子ぎつねだったそれを触ろうとするとガブリと噛まれた。だが不思議と痛くはなかった。
 鶴の字はそんな様子を見ながら何かを言っていたが、聞こえなかったため聞き流した。



 するといきなり茶色の子ぎつねは鶴の字の腕の中から飛び出した。








「あっ、待ってください!」









 ふと、俺の頭で何かが過ぎる。ここであの子ぎつねを追いかけたら鶴の字は━━━





 悪寒が身体中を這い回り、鳥肌が立った瞬間、俺は鶴の字の手を掴んだ。
 何でかは分からない。ただ、嫌な予感がしただけだった。








「…………どうしましたか?」
「えっ………あ、あぁ……あんさ、子ぎつねはアンタのペットじゃないんだろ?」
「そうですが………家にはもう一匹──」
「んじゃあよ!追いかけなくてもいいだろ!……こっち来いよ」
「ですが……」











 鶴の字がやたらと子ぎつねを心配する。俺自身もアンタのことが心配で言ってるのに…………
 すると、子ぎつねはこちらに戻ってきた。









「…………っあ、ほら、戻ってきたじゃねぇか!………な?だから……」
「あ、ホントですね。もう、ダメですよ?私が行かなかったら死んでしまってたんですからね」
「…………?」








 子ぎつねを抱いて人差し指を子ぎつねの鼻に当てて「メッ」と言う鶴の字。
 だが、俺は疑問に思った。何でそんなに肯定が出来るのだろうか。さっきもちゃんと帰ってきたというのに。


 だが、子ぎつねはまた走り出し、道路の方へ向かって行った。鶴の字もまた追いかけようと子ぎつねが走る方向へ向かった。
 俺の身体から血の気が引く感覚があった。急いで同じ方向に向かった。

 何が俺を動かしているのかは分からなかった。…………だが、あのまま行ったら……ダメな気がしたんだ。






 信号が青から赤に変わろうと点滅していた。だが、そんなのお構いなしに彼女は子ぎつねを追いかける。



 何で追いかけるんだよ、放っておいてもいいじゃないか。




 俺の中にある”何か”が語る。何だ、この胸騒ぎは。

 鶴の字は子ぎつねを捕まえて笑う。信号は赤に変わった。早くこっちに戻って来い、そう思った矢先。







トラックが彼女に向かってきた。









 待ってくれ………!見えるだろ?!そこにはアイツが………っ!











「鶴の字ぃいいいい!!!!」











 彼女は俺の方を向いて何故か笑って何かを言った。
 そして、彼女はトラックに跳ねられ、俺の所には血が流れ落ちてきた。それと共に子ぎつねが生きたまま俺の所に来た。
 まるで、死ぬのが当たり前のような、死んで当然のような、だから子ぎつねをいち早くにこちらに離したかのような。









「……っ、………何でだよ……何であんな顔をするんだよ…………何で笑ってこっち向いたんだよ………!」








 俺は彼女の身体に近づき、もう既に体温は冷たい物になっていたが、構わずそれを抱いた。
 泣いた。周りにどう思われようがどうでもよかった。大声で喚き叫んだ。








「意味ワかんねぇ………分かんねぇよ!!おめぇさんはバカなのか!?何で……………どうして……っ」
『じゃあ、やり直したらいいんだよ』
「っ!?」








 頭上から誰かの声が聞こえた。上を向くと、黒い人物……ガキの頃の俺によく似たやつがそこにいた。
 そいつはにっこりと笑い、また俺に言う。







『またやり直して、今度は彼女の代わりにおなじ事をすればいいんだよ』
「…………は……?……なに…………いって……」
『僕が違う時間軸に飛ばしてあげる。違う時間軸でも、起こることは今と同じなんだ。それを変えれば運命は変わるんだよ?』
「………………」









 何が言ってるのかわからなかったが、やり直せる、それだけは分かった。
 ならば、この事態を俺はやり直したい。そう願ったことが今









『さぁ、違う時間軸に行こうよ』
「……………あぁ」








 俺は黒いヤツの手を取った。




また彼女と笑い合うために━━━











 《貴様も、それを願うか。愚かよ。貴様が発端だというのにな。なぁ、小娘》
 



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