「そんな珍しいもんでもないだろ」


ダイヤルをいじりながら、呆れたような声で大我さんが言った。
私はその声を聞きながら、せっせとボウルに刻んだキャベツを入れる。
大我さんの声には、うきうきとお餅やらチーズやらのトッピングの用意を手伝ってくれていたニコちゃんがこたえる。


「確かに珍しくはないけどさ、ここにある物にしてはかなり意外だよね」


私達が話題にしているのは、大掃除の時に開かずの棚の奥から発掘されたホットプレートだ。
どうしてこんなところにあるのかはさておき、洗えばまだまだ使えそうだったので、次の日が休診日ということもあって、今日の夕飯の席で有効活用することにした。


「…なまえ。コレ温度もういいんじゃないのか」


いかにも面倒臭いと言いた気な調子ではあるけど、大我さんもなんだかんだまんざらでもないのは分かっている。
ホットプレートの温度調節をしてくれているのは他でもない彼だからだ。


「はーい、今生地入れます」
「貸せ。俺がやる」


やったぁ、とニコちゃんが歓声を上げて、ホットプレートの目の前に頬杖を付く。
危ないだろうが、と下がらせる大我さんの目はいつもより柔らかい。

大我さんが、私から受け取ったボウルを傾ける。
ホットプレートに落ちた生地は、じゅわりといい音を立てた。





生地は思ったよりすぐ焼けきて、私は慌てて豚バラを乗せる。
大我さんは何も言わずにフライ返しを手に取ったので、どうやらひっくり返すのもやってくれるつもりらしい。
かなり真剣な目をしているのが分かって、私とニコちゃんは思わず手を取り合ってフライ返しを構える大我さんを見守る。

果たして、少し温度を上げたホットプレートに、お好み焼きは綺麗にひっくり返された。

焼き色がついているのを確認して蓋をした大我さんは、どことなく得意気だ。
その様子に、ニコちゃんと私は顔を見合わせたけど、少し笑っただけで何も言わなかった。


**


「なまえさん、かつお節は?」
「出すの忘れてた、ちょっと待って」
「おい、もう一枚どうする」
「あ、焼いちゃってください」


ソースとマヨネーズと鰹節をたっぷりかけたお好み焼きの一切れをニコちゃんが頬張る。
大きな目を細めておいしい〜!と笑う様子は、見ているだけでこっちまで幸せになりそうだ。

生地を入れ終えた大我さんも、椅子に座りなおしてお好み焼きを食べ始める。


「…美味い」
「美味しいですよね、わざわざスーパーに長芋買いに行った甲斐ありました」


生地に長芋を混ぜたお好み焼きは、外はカリカリだけど中はふわふわだ。
甘めのソースもよく合って美味しい。
お酒にもよく合いそうだ。

そう思いながら顔を上げると、大我さんと目が合った。
その目に、私は少し首を傾げる。


「なまえ、ビール飲むか」
「なんだ、同じこと考えてたんですね」


思わずそう言うと、大我さんは一瞬きょとんとした後、フッといつものように鼻で笑って立ち上がった。
私がニコちゃん用にコップに烏龍茶を注ぐ間に、大我さんは缶ビールを開けてそれぞれのグラスに注いでしまう。


「あ、もう、大我さんの分注ぐんだったのに」
「気にすんな。…ほら」


特に挨拶らしい言葉もなにもなく、なんとなく大我さんとグラスを合わせる。


「乾杯」
「…乾杯」
「あっそれずるい」
「はい、ニコちゃん、乾杯!」
「かんぱーい!大我も!」


カチンカチンとグラスの音が響いた。

お好み焼きは美味しいし、グラスのビールもよく冷えて美味しい。
今日の疲れは、何とも言えず心地よくて、私は幸せな溜息を吐く。


グラスから口を離した大我さんの顔を見たニコちゃんが大笑いするのは、もうちょっとだけ後の話。


おしまい



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