お昼の食堂は混み合う。
診療科ごとに少しずつ時間をずらしてはいるらしいけど、それでもやっぱり大混雑に変わりはない。

明日那ちゃんにコスチュームチェンジしたポッピーと私は、食券券売機の長蛇の列に並びながら、背伸びしてメニューを見ようと頑張っていた。
券を買う直前に慌てるのは避けたい。


「見えた?」
「んん、一番上は本日の定食、酢豚なのはわかるんだけど…」


思い切り背伸びをすると、食券を買って列から離脱した人の中に、見知った姿を見つけた。


「あ、永夢だ」


手を振ると、永夢は私達に気づいてにこっと会釈する。
ポッピーが、すかさず手招きした。


「お二人ともお疲れ様です」
「永夢もお疲れ様。ねえ今日のメニューなんだった?酢豚以外の。なまえちゃんと頑張ってるんだけど確認できなくて」
「ああ、ここからじゃちょっと見えないですもんね。Aセットがかき揚げ丼で、Bセットが白身魚のムニエルでしたよ」


酢豚は一昨日の夕飯に作った。かき揚げ丼って気分じゃない。そして、魚のムニエルは今日の夕飯に作ろうと思っていたから却下。
そうすると残るは食堂の通常メニューだけ。


「永夢は何にしたの?」
「僕ですか?今日はカレーにしました」
「あーカレーか!その手があった!」
「えっなになに、なまえちゃんカレーにするの?」
「うん!しばらく食べてないし」
「じゃあ私もそうしようっと」
「それじゃ、僕先に行ってますね。なまえさん達の席も探しておきます」





「そういえば、ここの食堂のカレーって、ルウから手作りなんだってね」
「へえ、そうなんですか。知らなかった」
「ていうか、なまえちゃんなんでそんなこと知ってるの…」
「院長情報!」
「ああ、なまえさん、院長が来る時間帯結構CRいますもんね」


席についた私達は話しながらカレーを頬張る。
永夢が見つけてくれた席は、食券売り場と反対側の四人掛け丸テーブルで、食器の返却口からも少し離れているから、落ち着いて食べられる場所だった。


「まあ、ここのカレー結構コクもあって美味しいですもんね」
「専門店の、とまではいかないかもしれないけどね。おいしいよね」
「うーん。私はそんなに食べたことないから分かんないけど、ここのカレーが美味しいのはわかるよ!」


ポッピーのその言葉に、私と永夢は顔を見合わせる。


「そっか、そうですよね」
「確かに、そもそも食べる機会そんなにないもんね」


言ってから、私はあることを思いついた。
そういえば、次の休みは久しぶりにポッピーと被っているはずだ。
確か、筐体を含めた機器とシステムの全面メンテナンス、なんて聞いた気がする。


「ねえ、ポッピーの今度のお休み、一緒にお店にカレー食べに行こうよ!」
「え、いいの?なまえちゃんせっかくのお休みなのに」
「ちょうど行きたいなって思ってたカレー屋さんあるんだよね。病院からはちょっと離れてるんだけど」


そう提案してはしゃいでいると、永夢が、ええっと声を上げた。


「いいなぁ…僕もごはん食べに行きたいです」
「だってその日永夢はCRの当直でしょ」
「そうなんですよ…。まあ、貴利矢さんもCRに入ってくれたので、前よりは休みもずっと取りやすくなりましたけどね…」


はぁ、と、永夢が溜息を吐く。


「しょうがないよ。けど、今度は一緒に行けるといいね」


私がそう言うと、ポッピーも頷いた。


「3人だけじゃなくて、みんなで行けたら楽しそうだよね」


休み合わせられたりしないのかなぁ、なんて永夢が呟く。
けれどすぐに、まあ無理ですよね、と笑った。


「いつバグスターが現れるかわからないですし、もしそんな時に患者さんが出たら…」


永夢がそう言いかけたのと同時に、聞き慣れた音が響く。


「き、緊急通報!!」


慌てて永夢とポッピーが立ち上がる。


「永夢、出られるよね?」
「大丈夫です!」
「私、CR病棟の受け入れ準備しておく」
「飛彩は多分まだオペ中だから出られないと思う。貴利矢は出られるかもしれない」
「もしカンファが早く終わったらね。会ったら永夢とポッピーが先に出てるって伝えておく」
「じゃあそっちはお願いしますなまえさん。…行きましょう!」


これだもんなぁ。
きっと、みんなで休みを過ごすなんて、当分無理に違いない。
けれど、仕方ないかなと思う。

走っていく二人の背中を見たら、私ももっと頑張りたいなぁと思えてくる。

ぱちん、と自分の頬っぺたを両手で叩いて、私も立ち上がった。
とりあえずまずは、二人が置き去りにしていったトレイを片づけるところから。


おしまい


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