かつんかつん、滅多に履かない、いっとうお気に入りのヒール靴の踵が鳴る。
少し目線を下げると、おろしたてのミモレスカートの裾が揺れていて、嬉しくってにこにこしてしまう。


「そのスカート、可愛いよね。靴も」


私の顔を見たニコちゃんが、機嫌良く言った。
るんるんとスキップしそうなくらい声は弾んでいるけど、いつもと違う装いと場所のせいか、所作は控え目だ。黒いワンピースは、ニコちゃんのさらさらの黒髪もあってシックな印象。


「ありがとう!ニコちゃんのワンピースも可愛いよ。いつもより大人っぽいみたい」
「なまえさんに言われると照れる…ありがと」


いつもの元気いっぱいな声はどこへやら、ニコちゃんはちょっと緊張気味だ。
その隣を歩いていたポッピーも、そわそわと自分の服装を気にし始める。


「えっ私は?おかしくない?」
「そういえばその服ってどうしたの?」
「今日二人とスイーツビュッフェに行くって言ったら明日那の姿用に合わせて、黎斗が。さすがにピンクの髪はここじゃ目立つもんね」
「…アイツの趣味ってそういう感じなんだ…へーえ…」
「へ、変かな!?」


ニコちゃんの反応に、ポッピーがおどおどと不安そうにいつもより長めのスカートの裾を抓む。
そんなことないよと言うと、安心したように笑顔になった。

今日は待ちに待ったスイーツビュッフェの予約日だ。
三人で予定を合わせて予約したホテルのダイニングは、女性客でごった返している。


「うわぁ、すっごい混んでる」
「噂には聞いてたけどほんとにすごいね」


今日やってきたのは季節もののスイーツビュッフェで話題のホテルで、飛彩さんのお墨付きだ。


「ブレイブ、まじでこんな女性客ばっかのとこ一人で来たのかなぁ…」
「来たんじゃない?飛彩さん、全種制覇したって言ってたし」
「メンタル強すぎない?」
「…だって、飛彩だよ」
「あー、うん、そうだった」


糖分補給と銘打って、CR内で彼がホールケーキを丸ごと一人で食べていた様子は、CR勤務のポッピーは勿論、よく出入りしていたニコちゃんも見たことがあるはずだ。


「とにかく受付しよう、で、ケーキいっぱい食べよう!」
「うん!」





見るからに華やかなディスプレイに圧倒されている間に、気付くと私以外の二人はお皿にたくさんのスイーツを持ってきていた。

もしかすると全種のうち半数以上の種類が、既にこのテーブルにあるかもしれない。


「二人とも行動早くない!?」
「早くしなきゃ全種制覇なんて絶対無理って、ニコちゃんが」
「でも写真とか撮らなくていいの?」
「とっくに撮ったってば」
「えっ早っ!?」
「だって時間は限られてるんだよ?なまえさんの分もちゃんと持ってきたからさ、早く食べよ」
「あ、ありがと…」


そうして食べ始めると、色とりどりのケーキやムースは、見た目がきらきら可愛いだけじゃなくて、本当に美味しい。


「このジュレすごくおいしい!」
「え、どこに置いてあったの?あとで教えて」
「ねー後でみんなでチョコファウンテンしにいこーよ」
「なにそれ?」
「ポッピーはやったことないもんね。きっと楽しいよ」


そういえば、最初の緊張気味の様子はどこへやら、二人ともすごく楽しそうだ。
…散々ケーキを持ってきていた時点で、緊張なんてどこかに行ってしまっていたのかもしれないけれど。
病院の仕事のこと、新しいゲームのこと、最近行ったお店のこと、髪型や化粧品の話。
ケーキを食べながら、話題は尽きることがない。


「さすがにみんなでこういう感じで集まってごはんっていうのは難しいよね。黎斗さんのこともあるし」
「そりゃそーでしょ。そもそも、CRとうちの病院どっちも休診じゃ、通報に対応できるドクターもいなくなっちゃうじゃん」
「ポッピーとお休み一緒なのも、たまにあるかないかだし」


ね、とポッピーに話を振ると、ポッピーは少し考え込んだ。


「確かに、みんな一緒は楽しいんだけど…」
「けど?」
「私ね、いつも、みんなと一緒にドレミファビートしたいなって思ってるくらい、みんなと一緒に楽しめたらいいなって思ってるよ、…けど、女の子だけでっていうのも、楽しいなって」


その言葉に、私とニコちゃんは顔を見合わせた。


「なるほど」
「実はねなまえさん。あたしも女子だけでくるのも楽しいな〜と思ってたとこなの」


二人とも、何かを期待するような目だ。
その様子に、私は笑いながらフォークを置いた。


「…とりあえず、次の女子会いつにしよっか?」


おしまい



back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -