買い物客で込み合う夕方のスーパー。
清算を済ませて荷物を袋に詰めようと、重いカゴをやっと台に降ろしたところで、同僚の永夢に偶然会った。
「あれっなまえさん」
「あ、お疲れさまー。永夢もお買い物?明日休みなんだっけ」
「そうなんですよ〜。っていっても、僕はなまえさん程買い出しの量ないですけど…」
永夢は、私の目の前のカゴをみて、ちょっとびっくりしたように笑った。
「あは、そろそろ食材買っとかないとと思って。作り置きもしたいし」
足りなくなってきた日用品の他、タイムセールで安くなっていた食材も買い込んだ私のカゴは、商品が山積みだ。
一体、何袋になることやら。
「…とはいっても、確かにこれ、調子乗って買いすぎたよね…」
徒歩だけど、どうやって持って帰ろう。
むむむ、と唸りながら、下になっても大丈夫そうなものから選別して袋に詰めていく。
けどこれ、絶対二袋以上だ。
「あの、僕でよければ、荷物持ちますよ…?」
だから、永夢がそう言ってくれたのも、ある意味当然だったかもしれない。
結局三袋になった私の荷物は全部持ってくれて、私の手には、永夢の分の荷物が一つ。
エコバッグに入った彼の荷物は大きさの割にかなり軽くて、ちらりと中身を見てしまい、私はさらにびっくりした。
「…えっと、永夢の趣味って、カップラーメンの全種制覇…とか?」
「あははやだな〜。違いますよ、今日の夕飯と、一週間分の買い置きしとかないとって思って…」
一週間分の、買い置き…?
「永夢、まさかとは思うけど、毎日カップラーメン食べてるの…?」
今の自分の顔、黎斗さ…いや、自称神を見る時の永夢に似てる気がする。
*
そんなこんなで、帰宅してカップラーメンを食べる気だった永夢を、荷物持ちを手伝ってもらったお礼にと半ば強引に家に上げたのが20分前。
テーブルの前でそわそわしていた永夢の前に、手早く作ったオムライスとサラダを出す。
オムライスは、私の分より少しだけ大きめだ。
綺麗に巻くのもいいけど、今回はふわふわとろとろに焼いた黄色い卵を乗せるだけ。
ケチャップを容器ごとテーブルに出すと、永夢はきょとんと私とオムライスを見比べた。
「え、っと?ケチャップは…」
「あ、好きなだけかけていいよ」
ケチャップを渡すと、永夢はなんだか微妙な顔で蓋をあけて、ケチャップをかけてから、いただきますと手を合わせた。
「…うわー!おいしい!!まともな料理食べたの何日ぶりだろう…家帰って自炊っていってもそもそも時間もないですし」
「普通に勤務してるだけでも大変なのに、CRも兼任じゃそうなるよね…」
「そうなんですよね…さすがにカップ麺ばっかりじゃ体に悪いって、わかってはいるんですけどつい」
お互い苦笑いしながら、私も自分の分に手を付ける。
今日のオムライスの卵、焼き加減はここ最近で一番の出来かもしれない。
自分の分にケチャップをかけながら、そういえば、と気になっていたことを聞いてみた。
「さっきケチャップ渡した時微妙な顔してたよね?なんか変だった?」
しゃくしゃくとサラダを食べながら、あー、と永夢は頷いた。
「いえ、違うんです、ケチャップで、なにか描いてくれないのかなーとか思ったり、し…」
言いかけて、途端にわたわた慌て出す。
「わー!ごめんなさい違うんです!いや、違わないんですけど違うっていうか、って、痛!!」
永夢が、慌てて顔の前で振った手を思い切りテーブルにぶつけて悶絶する。
こういうところは、初めて会った時から全然変わってない。
「…えーと、名前とハートでも描くんだった?」
湿布でも出してあげようと、戸棚の救急箱を漁りながら、何の気なしに口にした。
ベタだけど。なんて笑いながら振り返る。
永夢の顔は真っ赤だった。
「えっ、そこで照れるの!?」
「だ、だから違わないけど違うんですってば!!!あーもう、こっち見ないでください」
永夢が、真っ赤になった顔を手で覆う。
違わないけど違うってなんだ。
思わず手元に置いていたグラスの水を一息に呷って、火照ってきた気がする顔を、手で押さえる。
どうしよう、私まで恥ずかしくなってきちゃったじゃないか。
溶けはじめた氷が、カランと音を立てた。
おしまい