CRで開発中のワクチンの件で用があるとかで、大我さんは出かけてしまった。
見送りついでに、表に臨時休診の張り紙を出してきてくれたニコちゃんは、戻ってくるなり不機嫌そうに溜息を吐いた。


「あーあ。暇になっちゃったじゃん」
「ほんとだねえ…」


私は苦笑しながら、時計を見上げた。
今は16時過ぎ。

賞味期限近い豆乳を冷蔵庫に置いていたから、使ってしまおうと思ってメニューも決めていたけれど、一人じゃどうせ食べきれない。
それに、たった一人で食べる夕飯の為に、手の込んだ料理をするのもなんだか寂しい。

ニコちゃんは、早速大我さんの机にお気に入りのスナック菓子を出して、ポータブルゲームを始めている。


「ニコちゃん、今日って早く帰らなきゃいけなかったりする?」
「えー。そんなことないけどー…どうしよっかな。どうせ今日はもうなまえさんも仕事ないんでしょ」
「そうなの!だからさ、夕飯食べていかない?」





「グラタン?…だってここ、オーブンないじゃん」


私が今日のメニューを告げると、レンジからジャガイモを取り出してくれたニコちゃんは驚いたように声を大きくした。

そう、実はこの病院の台所には、オーブンがない。
電子レンジはあるけれどオーブン機能はついていなくて、住み込みが決まった当初、ちょっとがっかりした。


「ほら、でもトースターあるから」
「え、あのトースターでグラタン焼けんの?」
「もちろん」
「へえ…。大我が食パントーストしてるのしか見たことなかったから、それ以外使えないと思ってた」
「そ、そっか…」


確かに、大我さんはパンをトーストするくらいにしか使っていない気がする。
あいつ家電の活用法絶対ちゃんと分かってないよね〜と笑いながら、食卓でゲームを始めるニコちゃん。
うん、かわいそうだからそれ以上言わないであげようね…まさかそんなことはないと信じてるけど。

お皿にジャガイモとウインナーやブロッコリーを並べて、作っておいたホワイトソースを流し込む。
チーズをたっぷり乗せて、あとはこんがり焼き色がつくまでトースターにおまかせ。

いい匂いがしてくる頃には、ニコちゃんはすっかりゲームをしまって、食卓に鍋敷きを二つと、フォークを出してくれていた。
目の前に熱々のグラタン皿を置くと、うわぁ、と歓声があがる。


「なまえさんすごい!超おいしそう!!」


手間をかけて作った甲斐があったと思える反応に、思わずホロリとしそうになりながら、冷めないうちに食べよう、と手を合わせた。


**


「このホワイトソースちょうおいしいんだけど!」
「でしょ〜!おかわりもあるよ」
「いやでも、さっき結構お菓子食べちゃったし、それに…」
「それに?」
「ちょっとカロリー気になるし…」
「そこは悩める乙女の味方なのよ…なんとこのホワイトソース、豆乳使ってるので超ヘルシーです!」
「えっまじ!?」
「まじ」
「じゃあ…」
「どうする?」
「…ちょっとだけ」
「うんうん、お腹いっぱい食べなさい!」


もぐもぐとよく口を動かして食べているニコちゃんは、まるでリスみたい。
素晴らしい食べっぷりに、私も釣られて食べたくなってしまったけど、おかわりするのはやめておく。

作ったものを食べてくれる所を見るのって、やっぱり好きだ。


「なーに、なまえさん。あたし、なんか変?」
「え?ううん、幸せだなーって思っただけ!」
「はぁ?意味わかんない」


台詞とは裏腹に、伸びるチーズをフォークで追いかけるニコちゃんの声は楽しそうで、私も一緒になって笑った。


***


ニコちゃんを途中まで送った帰り道、丁度帰ってきた大我さんに会った。


「何してんだお前」
「ニコちゃんに一緒に夕飯食べてもらったんです。それで、途中までお見送りに」
「そうか」
「大我さんは夕飯食べてきたんですか?」
「…いや」


そんなことだろうとは思った。やっぱり一皿分、残しておいて正解だ。


「今日ね、グラタン作ったんです。ニコちゃんにも好評で」


機嫌よく報告すると、少し先を歩いていた大我さんが、訝し気に振り返った。


「…グラタン?…オーブンなんかないだろうが」


絶対分かってないよね〜!と無邪気に笑う声が蘇る。
ああ、ニコちゃん。…そのまさかでした。


おしまい



補足



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