※名前変換ありません。



少し遅めのお昼ということもあって、院内食堂の大混雑も少し落ち着いている。
本日の魚定食のトレイを持って空いている席を探していると、窓際の角席に、見覚えのある後姿。


「飛彩さん、お疲れ様です」
「…お前か」


そういえば、CRでスイーツ類を食べているのはよく見ているけど、院内食堂で会うのは初めてかもしれない。


「ここ、空いてますか?」
「ああ」
「じゃあ、お邪魔しま………え?」


飛彩さんの向かいにトレイを置きながら何気なく目を遣って、違和感を覚えた。
座っている時もピンと伸びた姿勢はいつも通り。
目の前のお皿の中身は、私と同じカレイの煮つけ定食。
食べ始めたばかりだったのか、まだ魚は手付かずで、手にしているのはお茶碗と、


「…なんだ?何かおかしい事でも、」
「あ。お箸」
「は?」
「飛彩さんてお箸使うんで………すいません…」


…頼むから、何言ってんだコイツ、みたいな目を向けないでほしい。
彼の目力は強いから、いつも迫力満点すぎる。


「お前は俺をなんだと思ってるんだ…」
「いつもナイフとフォークのイメージが強くて。…つい」


溜息を吐かれて、私は誤魔化すように笑いながら、カレイをつついた。


「あ、おいしい」


こっくり深くて照りのある醤油色は、しょっぱいのかと思っていたけど、見た目に反してそうでもない。


「…確かに美味いな」
「ね、おいしいですよね。そんなにしょっぱくなくて、ごはんによく合う感じ」


飛彩さんも、私も、特におしゃべりをするわけでもなく、もくもくと食べていく。
けれど、その沈黙が居心地悪くないから不思議だ。

ふと、飛彩さんの手元を見てしまう。
ひょっとしなくても、ものすごく綺麗に魚の骨を取り除いているところは流石だ。
職業柄の器用さも勿論あるんだろうけど、やっぱり性格とか、そういうものも大きい気がする。
私はといえば、可もなく不可もなく、といったところ。


「んん…やっぱり飛彩さんみたいに綺麗にはいきませんね」


溜息を吐くと、私のお皿を一瞥した飛彩さんは一つ頷いて、お味噌汁のお椀を取った。


「まあ、いいんじゃないのか」
「そうですかね…」
「器用にこなすに越したことはないが、人にはできる事と出来ない事がある」


そう言って、飛彩さんはパチンと箸を置く。


「お前ほど美味そうに物を食べる奴を、俺は他に見たことがない」
「そ、そうですか?」


それって褒められてるのか貶されてるのか。
私が首を傾げると、飛彩さんはお茶のコップをトレイに置いて立ち上がった。


「…俺は先にCRに戻ってる」
「あ、はい」


トレイを持ち上げかけた飛彩さんが、そういえば、と付け加える。


「一人で食べる時と、お前がいる時と、随分と味が違うものだな」
「…はい?」
「今日の昼食は美味かった」


その一言で、何が言いたかったのか漸く分かった。
そんなこと言われたら嬉しいに決まってる。


「ご一緒できてよかったです」


私の顔をみた飛彩さんは、ちょっとだけ表情を緩めて白衣を翻した。


おしまい



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