カラン、自分が持っていたペンが机に落ちた音で、ハッとする。
ぶんぶんと頭を振ってCRの壁に掛かった時計を見上げると、針は天辺を回って随分経っていた。


「…ねむい」
「今日は朝から通報あったりして一日中ずっとバタバタしてたもんね…」


向かい側で書類の確認をしていた明日那ちゃん…もとい、ポッピーも、目をしぱしぱさせて溜息をついた。

ぐっと伸びをすると、背中がバキバキする。

コーヒーでも飲もうかとマグをコーヒーマシンにセットしたところで、ふと、あることを思い出して、マシンを置いている冷凍庫を開ける。
あった。私の名前が大きく書かれた、小さな二つのカップ。


「ポッピー!」
「わっ!?な、なになまえちゃん」


ピヨる……と机に突っ伏す彼女に、私は満面の笑みでカップを掲げて見せた。


「アイス食べない?」





「ほんとに私も食べちゃっていいの?」
「いいのいいの!こういう時のために買っておいたんだから」


いそいそと書類を脇によせて、ポッピーにアイスを勧める。
二つ買っておいてよかった。

ぺりぺりと蓋をはがすと、少し黄味がかったアイスクリームに、たくさん入ったバニラビーンズ。


「このアイス美味しいんだよねぇ。バニラビーンズいっぱい入ってて大好きなんだ〜」


一口掬って口に運ぶと、広がる冷たい甘さ。


「あー!やっぱりおいしいぃぃ」
「んんん、なにこれ!すごくおいしい〜!」
「でしょ!でもねポッピー、それだけじゃないの」


なになに?と、目をキラキラさせて乗り出すポッピーの目の前に、マシンで淹れてきたホットコーヒーを出す。


「このコーヒーを…アイスにかけます!」
「えっ溶けちゃうよ?」
「アフォガートっていうの。ちょっと溶けるくらいが美味しいんだよ」


気に入るかわからないから、とりあえず試しに食べてみて、とコーヒーをかけた私のアイスを差し出す。
恐る恐る一口掬ったポッピーは、スプーンをくわえたまま、大きな目を大きく見開いた。


「おいしい!!」
「そうでしょそうでしょ」
「私もアフォガートにする〜!」
「ほんとは、普通のコーヒーじゃなくてエスプレッソみたいな濃いコーヒーでやるんだけどね」
「でもこれはこれで美味しいよ」


すごく美味しそうに食べるポッピーの顔には、幸せって書いてあるみたいで、私も嬉しくなる。


「アイスのお陰でちょっとは眠気取れたね〜」
「ね、もうちょっと頑張って、早くこの処理終わらせちゃいたいね」


書類をバラバラ繰ってみる。できれば日が昇る前に終わらせたい。


「ねえ、なまえちゃんて、人を笑顔にするの上手だよね」
「…そう?」


不意にそんなことを言うポッピーに首を傾げながら、すっかりカラになってしまった紙カップの底を、未練たらしくスプーンで擦る。

それに気づいたポッピーが、自分のアイスを掬って私に差し出した。


「さっきなまえちゃんに一口もらったから、私の分も一口あげる!」


…人を笑顔にするのが上手なのは、ポッピーの方なんだけどなぁ。
笑いながら、私は一番おいしい一口をもらうべく、口を開けた。


おしまい



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