病院の売店でお昼用のお茶を買ってきた私がCRの階段を上がっていくと、真ん中のテーブルで作業をしていたらしい貴利矢さんが、丁度ノートパソコンを閉じたところだった。


「お疲れ様です貴利矢さん、お昼は?」
「んおー。今からー」


答えながら、貴利矢さんが伸びをする。
私は出勤した時に冷蔵庫に入れておいたタッパーたちをうきうきと取り出した。


「なまえちゃんは持ってきたんだ?」
「はい。もしよかったらですけど、お弁当食べません?」
「えっいいの?」


ぐりん、と効果音が付きそうなほど勢いよく振り向いた貴利矢さんの所にタッパーを持って行く。
一番大きいタッパーの中身はおにぎりだ。


「おにぎり包んでるアルミホイルに中身書いてあるので、好きなの食べてくださいね。あと、こっちは出汁巻きときんぴらです」


残り二つのタッパーの蓋を開ける。


「食べる食べる!てか自分が食べちゃっていいの?」
「多めに作ってきたんです、誰かいたら食べるかなって思って」


備え付けのミニキッチンの引き出しから割り箸を二本持ってきて、一本を手渡す。
箸を受け取った貴利矢さんは、わかりやすく嬉しそうな顔で、いただきますと手を合わせた。

綺麗な黄色に焼けただし巻きも、いい照りの出たきんぴらも、我ながらよくできたと思う。
おにぎりとよく合うし、なにより貴利矢さんが本当に美味しそうに食べてくれるから、一人で食べるよりもずっと美味しい。


「うわー、こういうの久しぶり。すげえ美味い」
「貴利矢さん、家庭の味的なものに飢えてそうだなーって。たまにはこういうのも食べたいかなって思って」
「えっなにひどくない?!自分そんな寂しい奴だと思われてるわけ!?」


笑いながら、貴利矢さんがきんぴらを頬張る。
私は調子に乗って、何でもないような顔をしながら出汁巻きをつまんだ。


「だってこの前もコンビニで溜息吐きながらロコモコ丼買ってたじゃないですか」


敢えてしれっと言ってみる。
もぐもぐと口を動かす貴利矢さんの肩が僅かに跳ねたのを私は見逃さなかった。


「………なんで知ってんの?」


どうやら本当にそうだったらしい。
なぜか悪戯が見つかった時のような声で言うのがおかしくて、堪え切れずに私は吹き出した。


「…ひっかかりましたね〜!知るわけないじゃないですか!ノせられちゃったぁ?」
「うっわひっどい!」
「いつもノせられる側なのでつい。あはは」


むくれながら、貴利矢さんが三つ目のおにぎりの包みを開ける。


「……なあ、なまえちゃんさ、さっき誰かいたら食べるかなって思って多く作ったって言ってたじゃん?」
「そう、ですけど…」


何が言いたいのか分からず首を傾げると、目に入ったのは悪い笑顔。


「その割に、こういうの食べたそうだなって考えて持ってきてくれたわけ?」
「…え、」


言われた内容を飲み込んだ瞬間、どうしよう、顔が熱くて堪らない。


「そ、そんな、えっと、」


どうしよう、どうしよう、
何て答えるのが正解だろうか。
顔を見ていられなくて、視線をテーブルに落とす。

最終的に、私はテーブルの真ん中に並べていたタッパーたちを、三つ揃えてずいと突き出した。


「……全部貴利矢さんにあげます」


くくく、と喉を鳴らす音が聞こえて、そろり、顔を上げる。


「あーあ、ノせられちゃった。なまえちゃん」


どうやったらなまえちゃんにそう言ってもらえるかと思ってさ。
そう言って貴利矢さんが笑う。
恥ずかしすぎてちょっと怒りたくなってしまったけど、あったかい目であんまり満足そうに笑うから。


「ノせられてあげますよ。明日のお弁当、なにがいーですか」


なんだって作っちゃおうじゃないか。


おしまい



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