電子レンジが軽快な音を立てる。
欠伸を噛み殺しながらレンジを開けると、ほわっと上がる湯気と、食欲をそそる匂い。
白い袋ごと取り出して、急いで給湯室を出る。

CRの階段を上がると、私が作業していた丁度真向いの席に、黎斗さんが長い足を組んで座っていた。
その手にあるのは、処理中の書類。


「う、わぁ、何してるんですか、ていうか何勝手に読んでるんですか」
「…なんだなまえ。もう戻ってきたのか」


近づくと、黎斗さんはちらりと目線を上げて、またすぐ書類に戻した。


「これ明日衛生省に出す書類なんです!」
「そんなことは分かっているよ」
「じゃあ勝手に引っこ抜かないでください」


ぴっと書類を取り上げると、明らかにつまらなそうな顔。
どこからどう見ても、すっきりとしたブレザー姿や所作は素敵な大人のお兄さんなのに、どうにも子供みたいに見える時があって困る。
…テンションがおかしくない時は、の話だ。


「代わりにこれあげます」


ちょっと笑いながら、私は持ってきた袋を掲げてみせた。


「なんだそれは」
「肉まんです」


まさかいると思ってなくて、半分こになっちゃって申し訳ないんですけど。
そう言いながら、怪訝そうな顔をする黎斗さんに、袋から取り出した肉まんを半分割って差し出した。

受け取った黎斗さんの表情は読み取れない。
二拍の間を置いて、黎斗さんは割った肉まんをテーブルの紙の上に戻して席を立ち、冷蔵庫を開けた。
ああ、お茶かと思いながら、私は自分の分にかぶりつく。

咀嚼しながら、さっき黎斗さんから取りあげて、端によけた書類になんとなく目を落とす。
もうちょっと直したほうがいいんだろうけど、なあ。

その時、視界に現れた手が、コトンと私の前に紙コップを置いた。


「えっ?」
「…飲み物があった方がいいだろう、これは君の分だ」
「…ありがとうございます」


黎斗さんは椅子に座って足を組みなおし、肉まんに手を伸ばした。


「私は、こんな時間にものを食べたりはしないんだけどな」
「人間だったころから?」
「ああ」
「でも、食べるんですね」
「せっかく貰ったものだからね」


もともとそこまで大きくなかった肉まんだから、すぐに食べきってしまった。
でも、一人で一つ全部食べるよりも、どうしてかお腹いっぱいになった気もする。
お茶を飲んで、再びペンと書類を取ると、黎斗さんがこちらに身を乗り出してくる。
長い指が、箇所を指し示した。


「…ここと、ここを入れ替えて、ここを差し替えるといい」
「え、」


思わず黎斗さんの顔を見る。
表情は真剣だ。


「こっちの書類は内容に問題はなかったが、ここに誤字があった」
「あ、はい」


慌てて指摘された箇所に付箋を貼る。
次々と指摘される修正箇所は的確で、流石としか言いようがない。


経営者だったころ、彼はこうだったんだろうか。


「…そんなにじっと見られると穴が開きそうなんだが」
「もしかして、手伝ってくれるんですか」
「美味しい夜食のお礼だよ。それに」
「それに?」
「私の才能が必要だろう?」


クスクスと黎斗さんが笑う。
いつも聞いてる台詞なのに。

ずるいんじゃないかな、そういうの。


おしまい



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