short story

星に願いを。



真ちゃんがそう思うならそれでいいよ、と意味深な言葉を残して高尾は去った。宛もなくひたすら走り続けた。皮肉にもバスケで鍛えられた身体は一行に疲れる気配もなく、走った距離は永遠に思えた。
膝に手をつき肩を上下させる頃には星が見えていて、隣町との境のこの丘は絶好のスポットだった。
こういうのって二人で見るものなんだけどなぁ、と少し笑って見せたが笑うにも笑えなかった高尾であった。
今日は帰らなくていいや。携帯を探すがどこのポケットを探っても出て来ない。ああ真ちゃんの家に置きっぱか、馬鹿だなぁ俺。
展望台に一つだけあるベンチに座った。そして高尾和成は考えた。
これじゃあ俺が真ちゃんが携帯を持って現れるのを待ってるようじゃないか、と。どんだけ未練がましいのか。
緑間真太郎は高尾が自分に対して恋愛感情があることを悟ったらしく、相棒としての意義を問い始めた。緑間真太郎は高尾和成を疑った。これで正しいのかと。これが本当の高尾和成なのかと。
緑間真太郎は動揺していた。どうすればいいか分からなかった。
高尾和成は驚いた。自覚症状はあったものの認めたくなかったため、自分の中ではなかったことにしていた。それが裏目に出たのか、あの緑間真太郎に気付かれてしまった。
高尾和成は動揺した。どうすればいいか分からなかった。
そして今、自分が行ったことに後悔をしている。
いやでもこれでよかったのかもしれない。これでもう忘れられる。
さようなら。さよなら世界。おやすみなさい。
ベンチは汚くひどく懐かしい匂いがした。

車の轟音で目覚めた。最悪の目覚めだ。身体中が痛い。
いつもの癖で携帯を探す。無い。ああそうだ、昨日忘れたんだった。
高尾は頭を抱えた。お金も何もない、さてこれからどうするか。帰るにも帰れない。第一帰り方すら分からない。
実に不本意だが俺は真ちゃんを待つことにした。
どうしよ真ちゃんが来ない真ちゃんが来ない。自分の腹を抱えながらベンチの前を一人で右左往復を繰り返した。お腹空いたよ、帰りたいよ。
家出をして迷子になった子供と全く同じことをしている。自分は馬鹿なのか。
もういいよ、寝る。

本日の目覚めは昨日以上に最悪だった。雨だ。寒い、死ぬほど寒い。
流石に今日は帰ろう…と立ち上がったが立ちくらみが激しい。とその時吐けない胃液を盛大にぶちまけた。久し振りに吐いたかも。体力やばいな。やっとの事で歩ける程度だ。家まで帰れるかな、と心配になりつつも高尾は足を前後に動かした。
もう何時間歩いただろうか。日本人は冷たいと実感した。
こんなに今にも倒れ込みそうな人を見ても、シカトシカトシカト。見て見ぬ振りがそこまで楽しいか。俺今どこだろう、目も見えないし、耳も聞こえない。ああ俺もうここで死ぬのかな。残念な最期だなぁ、情けない。「真ちゃ…」ごめんね。嘘ついてたんだ俺。自分にもお前にも。結果的には傷付けちゃったし。
俺は最低な人間だ、クズだ。もう終わりだ。
意識を手放そうとした瞬間。オレンジ色のカチューシャを着けた黒髪が崩れ落ちた瞬間。世界が二人の方を向いた。
「真ちゃ…ん?」「たかお」
「携帯忘れてるぞ」
「…」
「腹が減っただろう」
「…」
「寒かっただろう」
「…」
「…すまなかった」
「…」
「…」
「…」
「全くお前というやつは世話の焼ける相棒だな…帰ろう」
高尾和成が目覚めたのは見慣れた場所だった。寝ている場所はすごく綺麗でひどく懐かしい匂いがした。
ベッドのサイドテーブルには水とおかゆとおしるこが置いてあった。そして自分が新しい洗濯物の匂いと、シャンプーのいい香りがすることに気付いた。
温もりを感じる方に目をやれば、高尾の手を優しく握った手があった。緑間真太郎は疲れ切った顔で寝ていた。ベッドの端に突っ伏して寝ていた。
ああ、これって俺が望んでた結末じゃねえの。幸せかもしれない。そう思うと涙が止まらなくなるのが高尾和成である。
真ちゃんが起きたら最初に謝ろう。
自分が馬鹿だったことを言おう。それで真ちゃんが自分の話をする前にキスをしてもらおう。なんでそんなことが頼めるかって?信じてるから。あんな不器用なやつが俺にここまで尽くしてくれて、信用しない理由がないもん。
「真ちゃんおはよ、この前はごめんね。本当にありがと。愛してます」
馬鹿な世界にお別れをしよう。そして、2人で訳もなく走って星空を見に行こう。それで、幸せだねって泣いて笑おうよ。
携帯置いて出て行って良かった。

[やっぱり馬鹿だよ」








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