long story

味わうということ



悲しみは怖さの種類のひとつだろうか。
今現在発狂している俺にはそれを考える暇はない。



遡ること2時間48分13秒前。

やっと起きたかい?物凄く魘されてたけど、大丈夫?変な夢でも見たかい?
昨日俺がせがんで頼んで運んでもらったと思われる、自分の部屋のベッドの端に座ってはにかむ成人男性が若干一名。
頭が痛いけど、だいじょぶです。と流す。
時計を見れば13時13分13秒。なんて不吉なんだろう。


そんなぼやっとしている俺の目の前にはミルクティーが入ったマグカップが差し出される。
落ち着くから、とわざわざ台所からもって来てくれたらしい。
黙って紅茶をすすっているとある疑問が湧いてきた。


「ヒロトさん、いつからここにいるんですか?」
「ずっとだよ。狩屋が寝る前から今までずっと。」
「なっっ!?別に良かったのに寝不足でしょ」
「いや、ボク自身がしたくてしたことだからね。気にしなくていいよ」
「そいえば仕事は?また緑川さんに怒られますよ」
「はははっ、今日は休んだよ。ちゃんと理由が付いてるからだいじょぶ。」


マサキ、夢の内容はどんなだったかい?
と突然切り出す。
俺とは反対方向を向いてなにか作業をしている様だったので表情は見えない。


俺は何も言いたくなかった。思い出したくなかった。
夢であっても認めたくなかった。
掘り返したくない過去がそこに映っていた。



両親が俺を捨てた日。



両親の子供じゃなくなった日。人間不信になった日。
あぁあ、まるで悲劇みたいな人生だな。



「言いたくないんだったら無理しなk「大丈夫ですよ。無理なんてしてないから。ただ単に、振り返ってたんですよ。自分がどんな子だったのか、自分がどんな生活してたのか。」
俺は何を語ってるんだ?ヒロトさんに話したくない。話したところで、何になる?俺に何の利益がある?
「母親まで出て来ちゃって。相変わらず顔はよく分からなかったけど。リアルすぎて怖かったです。」
「あ、そうそう。『じゃあね、マサキ』って言いながら去って行く母親の背中があって、それを必死に手を伸ばして掴もうとしたのものの、俺の手は何かに引き剥がされてしまったんです。それで暗闇に消える肩を抱く父と母の姿を立ち尽くして見てたんです。こんな夢見たくなかったわぁ」
やだやだやだ。口が勝手に開いてしまう。崩壊したダムのように、次から次へと言葉が溢れ出てくる。
「でねでね、初めて自分が幼稚園ぐらいの時の自分を他人の目線から見れたんですよ!!すごくないですか!?あ、当たり前か。いつもこんなもん見てたらおかしいですよね、あははh「もうやめなさい。」それからねぇ…えーっと、そうだ!!思い出した!!小がっk「やめろって言ってるだろ!!!」
初めて怒鳴られた。
勿論、ヒロトさんに。


「…なんで?ヒロトさんが聞きたいっていうからせっかく話してるのに。」
「お前が泣きながら無理矢理笑顔貼り付けた顔で話してるところなんて見たくないよ…」
「へっ?俺泣いてなんかないですよ?何言ってるんですか、ヒロトさん」
じゃあこの顔は何なんだ、と目の前に手鏡が差し出される。

そこに映るターコイズの髪の少年は、下睫毛を濡らし、目尻を真っ赤に腫れさせていた。
誰だろう、この人。俺に似てる気がしなくもない。あれ、俺ってどんな顔してたっけ。
そんなことを考えつつも手鏡から顔をあげた。そこには鏡に映っていた少年に少し似た、赤毛の青年がいた。



そして、彼はこう言った。


「お前がここに来てちょうど一年が経った。辛かったね、寂しかったね。変われるものなら今直ぐに俺とお前の人生入れ替えてあげたいぐらいだ。」











「今朝お前の両親が亡くなった」









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