memo
感傷的なワルツ


聞いておくれ
僕はどうしても夜が好きなんだ
星も月も天の万物すべて
明るい夜空も寒空も雲に覆われた緑がかった紫の空も
紺碧の空も

天の川も
夢の果ても
美しいじゃない
静かな夜
素敵じゃない
街灯も蟲も
自動車の排気ガスも
夏の露草の匂いも
冬の寒い匂いも
秋の家の食事の匂いも
春のあたたかい匂いも
素敵じゃない

何でもないようなことが全て大きく見える夜
大きいことがとても小さく感じるよる

銀河鉄道の夜

死んだ人は星になるんだ
そして僕たちを上から見守るんだ
神様のところに行くんだ
雲に隠れて淋しくなったら夕立になって

深夜が好き
明るみ始めた夜が好き
夜更けも好き

寒くて一人淋しい夜も
賑やかであたたかい家族や仲間と一緒の夜も
暑苦しくて眠れない夜も
冷え込む夜も
暖炉の前に座って本を読む夜も
窓辺にひざまずいておいのりする夜も
星に願いをかける夜も
お月さまに話しかける夜も
狼の遠吠えが聞こえる夜も

街灯がうるさい夜も
街灯がみんな消えた夜も
何もないよるも
騒がしい夜も
けんかした日の夜も
誰かが死んだ夜も
誰かが生まれた夜も
全部素敵じゃない

無限に広がる空はどこまでも続いて
でもきっとどこかに続いていて
きっとどこかにたどり着く

特に理由はないけれど私はよるが好き

夜が好き
よるがすき

よる
よる
よる
よる
よる


吸い込まれるような紺に
きらめく銀河
誰のものでもない夜
自分の夜
自分だけの夜
夜を独り占めする
電話越しの銀河
糸電話で電話しよう
糸電話
電話ボックス
もしもしかみさま

満天の星空
満面の笑みを浮かべた少女
彼女は空を見上げると泣くのでした

きっとそれに理由はなくて
ただ単に恋しいのでしょう

おかあさん
おとうさん
幸せって何だろう

よるってせつないよ
さみしいよ
でも星を見ると心が軽くなるんだ

無限に続く空が憎くて仕方ないんだ
嫉妬
後悔
空に全部言いつけてやりたい
こんな星空見たくもない
満月なんて大嫌いだ

三日月にまで同情を求めるよ

白夜は怖くて僕には到底対峙できない
かといって極夜も僕には理解できない

仄暗い
灰色の
藍色の
紺色の
紫色の
黒い
緑色の
青い
夜空が
僕は
嫌いで
嫌いで

よるが
よるが
よるが
よるが
よるが
すき

理解されなくたっていい
放っておいてくれ

少年は本を投げた

窓を割った

電球を砕いた

蛾を潰した

夜を握り潰して飲み込んだ

自分が夜に呑まれる前にと

さようなら

銀河鉄道の夜

辞書には載ってないような模範解答
混ざって
とけて
ふくざつにからんで
ほどきやすくて
何かにほだされる夜

母なる大地父なる海

肉体

精神

全部こんな夜に言いつけられればいいのに
全部夜の所為にしてしまえば
楽だったのに

眠るように落ちて
舞い上がって
天にたどり着いて
けど銀河は何処迄も続くから
どこに行くかは分からないけど
どこか遠くへ連れて行って
誰も知らない遥か彼方へ
最果てを見せて

虚無のその向こうへ
虚構のその彼方へ

よる
よる
よる
よる
よる

ああ

あああああ
ああ









手は空に届かない
夢も手に取れない
無謀な希望を抱いて落胆するのはそこに眠る少年

少年は大志を抱き
全てを投げ出した

こんな宗教じみた文章に興味など示さなくたっていい
無に晒されて
生きた実感を
白になる気分を

建てた城を建てた橋を壊して
終わりにしよう
永遠と書き続けられるから

道化師だってよるにはなれないんだ
魔法使いだってよるにたどり着けないんだ

僕だって無理さ
食われて
飲み込まれて
吐き出されて
捨てられて

血の塩にもなれない
世の光にもなれない
神様なんて信じたくない
いるとは思う
神様がいると信じてる
でも願いは叶えてくれないから
信じたくない

天使だって
見えるものじゃないし

神秘




愚か者め

素直に生きろ
死んでしまえ
生きる気力
すべて失っただろう
もういいだろう

君も
君も
君も
全てに別れを告げてしまえ
夜に身を委ねて
青に流されてしまえばいい

浄化などされない
天国でも地獄でもそのあいだでもない

みんなが知らない
誰も知らない
僕だけの世界
僕だけの夜

先生だって知らないんだ
神のみぞ知る?
いやうそだね
神様だって知らないさ
よるのはてに何があるか
空の向こうはなんなのか
虹が見える?
死者に会える?
自分が見える?
何が見える?
なにがある?
誰も知らない

そう
神秘

僕だけの秘密基地
独り占めできるんだ
誰も知らない
誰も知ることの出来ない一人だけの世界

もういいかい?
もういいよ

かくれんぼ
おにごっこ
いたちごっこ
神隠し

ああ
あああ
ああああ
ああ
うん

消えてしまおう

淋しくなんかないよ
嬉しくもないけど
頭の中空っぽ
時間の無駄
字面も見えない

全部夜の所為だから
いい訳もしない
事実だから

放っておいてほしいの
構わなくていいから
ひとりはきらいだよ
ほらどっかいってよ
はやく
はやく
こわいから
夜はあけなくていいから
夜が僕を包み込む
かわいたのどを潤すように
世界は滲んで
誰も見たことのない世界へと僕を誘うんだ

桃源郷
天国
全部違う
僕の世界
私の世界
少年はあきらめた

天体観測ももうやめよう
無意味に等しい
少年は全てを失った

カタツムリに問いかけた
君はなんでいきてるんだい?
そしてそのカタツムリを星にしたのは言うまでもない

その星を手に取って飲み込んで
夜になった気分になった
有頂天
絶頂



ああ
あああああああああ


ああ

ああ
嗚呼。

あなたはいまどこ
同じ空を眺めているの
夜はどこにいるの
君にとって夜はなに
死者はどこへ行くと思う
神様は実在するの
きみは何を信じてるの
よるとはなんなのか
きみはだれなの
私はなんのためにこれを書いてるの
わたしはなんのためにいきてるの
だれもしらない
こたえもみつからない
不公平だ
算数みたいに解けたらいいのに

繰り返し同じことを問う
ノイローゼじゃないよ
大丈夫
膝を抱えて一人泣き笑い
しゃべることも億劫になって
本来の主旨も忘れて
好きだった夜の話のはずなのに
いつのまにか人生論やら哲学的な話になってしまった
どうでもいいことに変わりはないんだけどね
適当だから

何も考えない

なにも
かんがえない

あさひはのぼらなくていい
いろ
かたち
おんど
におい
触った感触

感傷的なワルツを聴きながら
銀河鉄道の夜を想う






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