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雨垂れ石を穿つ - 03



――あ、ニュースに出てる。

最近は私と同い年のヒーローも、華々しく活躍しているのをよく聞く。私も普通科ながら雄英生の端くれだったので、同級生の名前が出ているとつい反応してしまう。

剛健ヒーロー・烈怒頼雄斗。
第一印象は『覚えにくい名前』だったけど、そんなのはこうして露出が増えれば関係ないことだよね。


――彼だ。私に、ヒーローを諦めさせた人。


雄英高校ヒーロー科の受験会場で、彼と話をした。黒髪で、そんなに派手な個性じゃなくて、お人好しで、ちょっと変わった持論があるらしい、男の子。
凡人だった私と同じように、しんどい思いをして試験に臨んでいて、でも明らかに、私とは違う。

彼に助けられた後、私はまた会場の奥に戻って、でもやっぱり力不足でその後の追加得点はなし。当然、試験は不合格。
先に受けていた他校のヒーロー科にはギリギリ引っかかっていたけれど、私は迷うことなくその学校を蹴って雄英の普通科に進学した。

彼のせいで、あれは完全に記念受験に変わった。合否なんてどうでもよくて、怪我も、ライバルと呼ぶほどでもない周りの子達も、関係ない。
ただ私がここまでできて、そしてこれ以上は届かないのだと、最後まで確認しただけの。


「……まだ、雨止まないのかな」

スマホの画面から視線を外し、傘をさして行き交う人々を見る。雨空のせいだけでなくもう暗くなってきたので、そろそろ帰ってご飯の準備もしたいのに。
雨足が弱まる気配はなく、これは覚悟を決めて走るべきだろうか……と考え始めた。

雨に降られるのは好きじゃない。晴れた日でも折り畳み傘を鞄に忍ばせるくらい。
私は彼みたいに硬い皮膚も髪も持っていないから『俺の個性、雨だって弾くんだぜ!』なんておかしな自慢はできないもん。


「――あ!いた!」
「……えっ、どうしたの?」


小さな駅に、大きな声。びっくりして目を向けて、相手を見てまた驚く。

「どうしたって。お前がまだ帰ってないみたいだったから」

一旦傘を閉じて、駅構内のベンチに座る私の元まで。
ツンツンした赤髪と、三白眼気味の赤目、しっかりした体躯はそりゃあ目立つ。利用客の少ない駅とはいえ、今は帰宅ラッシュと言っても良い時間、何人かがチラチラと彼を横目に見て行った。

「帰り、早かったの?」
「おう!定時で上がらせてもらった」
「……まさか私に会うとか言った?」

問うてみると、彼は苦笑して目を逸らした。
呆れた。この前、飲み会で散々いじられたって、今度から職場でプライベートの話はしないって、言い張ってたくせに。

「有言不実行は男らしくないねぇ」
「や、違うんだって!それとこれとは」
「あはは、冗談」

荷物を抱えて立ち上がると、それ持つぜ、と手を差し出された。

「いいよ。傘持って。1本しかないみたいだから」
「あ、うん」

彼がさしてきた傘は男性向けの大きめサイズなので、なんとかなるだろう。私達は恋人同士なので、近い距離だって何も問題はない。
肩がぶつかる距離感で、雨音の中、2人で歩き出す。

「ごめんね。疲れてるのに迎えにこさせて」
「いや、全然?待ってらんなくて出てきたとこもあるし」
「ふふ、そっかぁ」

彼が、最近追われていた案件が落ち着いたとのことで、久しぶりのデートというか、お家でのんびりしましょうか、という話になっていたのが今日。大抵招くのは私の部屋なので、彼の訪問より前に帰宅できなかったのは申し訳なかった。

帰ってないみたいだから、と先程言っていたあたり、一度私の部屋のチャイムを鳴らすくらいはしたのだろう。あるいは合鍵で入って、玄関に靴がないのを見てきたか。

「今日に限って、傘持ってなかったの。助かった」
「珍しいよなぁ」

彼は私の傘事情を知っているので、そう言って笑う。なんせ学生時代、彼に傘を貸して助けてあげたことも何度かあった。

「こうしてると、思い出すね。最初に傘貸してあげた時のこと」
「げっ、やめてくれ……」

私が言うと、嫌そうな声が返ってきた。そうだね、あなた的にはあれは、男らしくなかったんだもんね。



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