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きっと誰にもわからない - 02



数ヶ月前から逃げ回っている、殺人容疑もかかっている凶悪敵を追うチームに入らされたらしい。

少し興味を感じて目を向けると、気に食わないという表情を隠しもしていなかった。

「すごい話じゃないの?それって、確かエッジショットが仕切ってる」

一世代前のヒーローというと聞こえは悪いが、要はオールマイトの引退前後でヒーローの層が随分変わったという話である。オールマイトをNo.1ヒーローとしていた頃、つまり幽姫達の世代が憧れたヒーローの一角であるエッジショットは、今も実力のある人気ヒーローだ。
そんな彼と同じチームで働けるというのは、幽姫からすれば誇って良いようなものだけれど。

「ああいうゾロゾロ集まってコソコソ嗅ぎ回んのは、性に合わねえっつーんだよ」
「……はあ、なるほど」

言われてみれば、エッジショットはどちらかといえば隠密系の仕事を得意とする。
幽姫にとっては、情報を集めて外から敵を追い詰めるのもヒーローとして重要な仕事だと思うが、この派手な若手ヒーローは相変わらずそういった裏方の仕事は好きじゃないらしい。

「いいじゃない。そんな大きなヤマに当たって、上手くいったら仕事増えるよきっと」
「言われんでもわかっとるわ」

そりゃあ、こうして文句を言ってるわけだから、好き好んで引き受けたのではないだろう。
事務所設立直後の若輩者の分際で、仕事を選んではいられないということだ。学生時代より幾分ワガママの減った爆豪も、その程度は受け入れているらしい。

「ふふ、大人になったね〜」
「どういう意味だコラ!」
「はい、ゴローちゃんありがと」

カシャンと最後の食器が食洗機に収まったのを確認して、スイッチひとつで洗い物が始まる。文明の利器とゴローちゃんの力があれば、食器洗いなど取るに足らない仕事である。
ちなみに今日は爆豪がオシャレなディナーを振舞ってくれたので、洗い物を幽姫が買って出たという経緯がある。

「あ、もしかしてしばらく会えないってこと?」
「……ああ」

爆豪が苦い顔で頷いたので、そっかぁと幽姫は笑ってみせた。
二人揃って嫌な顔をしたところで、ますます爆豪がやる気を無くすだけだ。

「だからご飯作ってくれたんだね。また今度レシピ教えてね、スープが美味しかった」
「めんどくせー」

とか言いながら休日になったら一緒にキッチンに立ってくれるのを幽姫は確信している。
しかししばらく会えないということは、その休日もしばらくお預けということだ。そう考えると少し残念。

爆豪は意外にも幽姫に食事を振る舞うのが好きらしい。才能マンの作る料理はさすがの出来で、少し食べ過ぎてしまうのが難点である。特別いい反応をしているつもりは無いので、何が楽しいのかはよくわからない。
前に『私を太らせるつもり?』と尋ねた時は、『それも悪くねえな』なんて飄々と答えた。やはり意図がわからない。重くなったら浮かし辛いから困るのだけど。

「あ、でもね。私の知り合いの刑事さんもその敵の事件追ってるらしいから、もしかしたらそのうち合流できるかも」
「鈍間に合流されてもなァ?」

今さらそんな言葉でからかわれても、なんのダメージもない。出会った頃から投げかけられている呼び名である。
ひどいな〜と言いながら、爆豪が腰かけているソファの隣に座った。さっきから睨みつけていた資料は、おそらく話題の敵の情報だろう。一応ヒーローの仕事にも守秘義務というものがあって――今までの会話も大概義務違反だが――幽姫には見えないように裏返してローテーブルに投げ出された。

そんな爆豪の膝の上に白い靄が落ち着く。二人と一匹でいる時はいつもこうだ。
そうやって当然に一緒にいられることを、幽姫は”幸せ”と呼んでいる。

「でも無理はしないでね。怪我も」
「誰に言ってんだ」

爆豪はニヤリと笑って幽姫の髪をくしゃ、とかき回した。
悪どい笑い方に反して、その手つきは繊細に思える。幽姫はくすくす笑って、やめてよーと言葉ばかりの反抗をした。



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