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束の間、夢を見たかのようだ - 03



「……なんだあ?」

と思ったら、猫がパッと爆豪の前に立ちふさがった。首を傾げつつ避けて通ろうとすれば、それに合わせてウロウロと邪魔をしてくる。まるで通せんぼをしているな動きだった。

「テメーと遊んでる暇ねーよ、どっか行ってろ」
「――にゃーん」
「邪魔くせぇ……」

ナメてんのかと苛立ったが、なんとか冷静にため息を一つ。猫一匹に翻弄されるのは懲り懲りである。
しかしそんなことをしているうちに。

「あっいた!爆心地さーん!」

声を上げて駆けてきたのは、先ほど待機命令を出した相棒だった。隣には今回共同で仕事に当たっていた現地ヒーローの一人。歩道として整備されていたらしい道を通って――つまり爆豪のように林に突っ込んだわけでなく――やってきたのは、そのヒーローに案内してもらったからだろう。

「お前待機って言ったろ」
「だ、だって……あんなところ突っ込んで行くからどうしたかと思うじゃないですか」
「俺じゃなくてこいつに言えや」

ぞんざいに黒猫を指差してやれば、相棒はちらりとそちらを見やっただけで、むすっと黙り込んだ。代わりにもう一人のヒーローが真面目くさった顔で口を開く。

「ええと、爆心地さん。他チームも全員作業終わったので、引き上げましょ。それで呼びに来たんだよ」
「……そりゃどーも」

確かに、爆豪達はこの辺りの道順に詳しくないので、帰りの案内役がいると楽だろう。地図はあるので迷うつもりはないが、親切心くらいは受け取っておく。

「けど、聞いてんだろ?迷子のガキがいたから、そいつ見つけてから戻るわ」
「迷子……あー」

彼はパチリと瞬きしてから、気のない声で頷くと。

「そう言えばさっきすれ違った親子連れがそんなことを言っていたよ。もう暗くなるから帰りなさい、って注意したら、この子が迷子になってたから〜って、言ってたかな」
「はあ……?」

その言葉には違和感があった。すれ違ったって、どう道を通ってきたのかは知らないが、それは考えにくい気がした。
二人は猫が現れたのと逆方向からやって来たし、もし林の外で少女と母親が再会したのなら、爆豪も気づくはずだ。この広場とそこから続く歩道については、それなりに見通しは悪くないのだから。

「おい、そりゃマジだろうな?」
「他のヒーロー疑うとか良くないです。爆心地さんじゃないんだから」
「お前は本当に口が減らねーな!」

相棒の言い草には腹が立ったが、確かにそんな嘘をつく理由はないだろう。お互いヒーローだ、そういう意味では信用はしておく。
ということで、案内役のヒーローに続いてその場を離れる。まったく、無駄な時間を過ごした気分だ。


「――猫ちゃーん!またね〜」
「……は?」


また背後から。振り返ると、広場の真ん中で少女が長い黒髪の女と手を繋いで立っていた。『猫ちゃん』はといえば、ちらりと振り返っただけで、また爆豪の後をついて歩くばかり――って。

「なんでついてくんだよ」
「――なーう」
「わけわからん……」

やっぱり、迷子の親子を見たっていう情報は嘘だったんじゃねーか。爆豪の前を歩く二人は、何事もないように会話を続けている。野良であろう黒猫は爆豪の後ろをずっとついてくるし、ちょっと足で蹴るような脅しをしてみても、その分距離をとるだけだった。

ああ、不完全燃焼。なんだこれ気持ち悪ぃ。

「あ、そうだ爆心地さん。早く終わったから、事後処理だけしてしまいましょ。うちの事務所貸すよ」
「あ?あー……俺らは明日――」
「いーじゃないですか!ね、今日やっとけば明日ゆっくりできますよね!」
「はあ?お前さっきと言ってること真逆だぞ」
「思い直したんですー」

変な疲労感があったので、相棒の言ったようにさっさと帰ろうと思ったのだが。さっきは文句を言っていた相棒が、妙に逆の意見を推し始めて、また爆豪は顔をしかめた。

*  *

すっかり事務処理まで終えてしまって、爆豪達はやっとホテルに向かっていた。

「あ、コンビニ寄っていいですか?」
「おー」

相棒に同意して、ついでに飲み物でも買っておくかと思い立ったのだが、コンビニの入り口で問題が一つ。

「……だから、テメェはいつまでくっついてんだ!」
「――にゃ!」
「ちょ、爆心地さん声大きいです」

引き気味の表情は気に入らないが、相棒の言葉通り、コンビニの入り口で騒ぐのは良くない。店員が不思議そうに目をやっているのも見えた。
チッと舌打ちして、仕方なくコンビニに入るのは諦めた。店内に不衛生な野良猫を連れて入るわけにもいかない。

「おい、水買ってこい」
「俺はパシリですか」
「後で金渡すわ!……あと、なんか餌になりそうなもん」
「えさ……?」
「なんか食わせりゃ気済むだろ。猫缶でも買ってこい」
「爆心地さんの口から猫缶って単語が……」
「黙って買ってこいや!」

はーい、とやっぱり生意気な返事でコンビニに入っていく男を見送った。さて、問題はこの黒猫である。

夕刻出会った黒猫が、三時間経過した今でも後ろについてきて離れないのだ。事務所を貸すと言ったヒーローが『うちペット禁止じゃないから、いいよ』とどこか引きつった笑顔で許容したので、事務作業中もずっと爆豪の近くをウロウロしたり横になったりして過ごしていた。
何が目的なんだかさっぱり見当がつかず、爆豪としても対策のしようがない。無理やりつまみ出してやりたいところだが、体型に関わらず意外に俊敏な動きをするものだから、触れることもできなかった。

しかし野良猫なんていたら気になるかと思ったわりに、他の者達は目をくれることもなく、爆豪もそこまで違和感を覚えなかった。とはいえ邪魔にならないといっても、ずっと連れ歩く気はない。もうすぐ宿泊先に着くわけだから、それまでにはどうやってでも引っぺがす必要があった。腹が減れば勝手に消えるだろうと予想してここまで来てしまったのだから、もはや逆に餌を与えてしまった方が効果が出るのかもしれないと予想してみる。
コンビニの外で手持ち無沙汰に待つ間、足元の黒猫を睨みつけていた。当の猫も爆豪の方をじっと見上げて、時折尻尾の先を小さく揺らす。

「爆心地さん、買ってきましたよー」
「ん」

レジ袋からペットボトルの水と猫缶ひとつを取り出して渡された。猫缶ってなんでもいいんですよね?と少し不安げに聞かれたが、爆豪だって種類など知るわけがない。
コンビニからホテルへはすぐだった。歩きながら缶詰の蓋を開け、入り口の前で立ち止まる。相棒には先に行ってろと伝え、振り返れば当然のように黒猫が座って待っていた。

「ほらよ。食ったらさっさと消えろ」

爆豪もその場でしゃがみこんで、缶詰をこれ見よがしに猫の目の前に置いてやった。
相手は一瞬警戒するように後退ってから、少し首を伸ばして中身を覗くようにした。ちょっとそちらに向けて押してやっても、食べるそぶりはなし。

「あんだけべったりしておいて、餌は警戒するってなんだよ……」

やたらに懐かれたのかと思ったが、そうでもなかったのだろうか。とことん変な猫である。缶詰に鼻を寄せて臭いを確かめている黒猫に、なんとなく手を伸ばした。



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