×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




春一番 - 03



「あなた、本当いい子ねー」
「えっ、いやそんなことは」
「あるわよ!自転車のこともだけど、こんなおばさんと並んでお喋りするの、楽しくないでしょ?」
「ええー、それは本当にないですよ〜」

最初は確かに怖気付いたが、明朗快活な会話は珍しさもあって、思っていたより楽しい時間である。そう伝えるとさらにご機嫌な声色でお上手ね!とまた肩を叩かれた。こういうスキンシップも慣れないが、彼女がやるとあまり違和感なく受け入れられるような。

「もうすぐ家着くから、ぜひお茶くらい飲んでいってもらいたいところなんだけど……時間がなくてごめんなさい」
「いえいえ、お気遣いなく」
「――あ、よかったらどこかカフェにでも行く!?若い子ってそういうの好きでしょ!」
「え」

まさかそんなレベルで気に入られたとは思っていなかったので、完全に面食らった。名案だという風に目を輝かせて、続けられる。

「今日旦那も休みだからさ、それも一緒でいいならだけど」
「いや、本当に大丈夫ですから!」
「私がお喋りしたいだけよ。あなたの大好きな彼についてとかね」

完全にからかわれるやつだ、これ。幽姫にもさすがにわかったので、ぶるぶると首を振ってしまう。

「お、お誘いは嬉しいですけど……!あ、私もこの後行くところがあるので……!」

まるで今思い出したかのような言い方になった。実際、駅前で爆豪に連絡を入れてからスマホを見ていないので、その後の対応がどうなるのか確認していなかったのは今思い出した。

「え、そうだったの!?それは悪いことしちまったね」
「いえ、遅れるとは連絡したのでお気になさらず」
「じゃあ旦那に言って車出してもらおうか?目的地まで送るよ」
「あ、それは……ありがたいです」

今度は本当にありがたい申し出だったので、思わず頷いてしまった。断った方が常識的だっただろうか、と一瞬思ったが、任せて!と大きく頷く彼女にとっても損にはならないだろう。貸し借りは無いに越したことはない。
というか、車を持っているならそれで買い物に行けばよかったのでは……と疑問に思ったので尋ねてみると、旦那さんは息子さんと二人で家の掃除をしているそうだ。きっと彼女が言いつけて出てきたのだろうな、とすぐ思い当たった。

「目的地どの辺?」
「ええと……私も詳しく聞いてなくて……」

ちょっと待ってください、と言いつつスマホの画面を立ち上げた。ら、思ったより面倒臭そうなことになっていて思わず呟く。

「うわ……」
「ん?どうかした?」
「ああ、いえ。待ち合わせ相手が、なんか機嫌悪いみたいで。いつものことですけど」
「ふーん?」

困ってる人がいたから付き添うので遅れるかも、という幽姫のメッセージに対して、お人好しだの急げだの今どこだのと思っていたより返信が付いていた。
機嫌のいい時の彼は逆に返事が簡潔になるので、多分今は機嫌が悪い。せっかく珍しいデートなのに、難儀な人だなぁと肩をすくめた。とりあえず、遡って乗り換えの指示に書かれている目的の停留所を伝えた。

「え?そのバス停」
「そこから近いみたいで、迎えに来てくれる予定なんですけど」
「じゃあもうこの辺よ?うちの最寄りも、そのバス停だし」
「え!?本当ですか!?」

なんと奇跡的な偶然であろうか。約束の時間はもう五分とないが、もしかしたら走れば間に合うかも。
と、希望が見えた丁度その時。


「――はああ!?テメ、何してやがんだ、ンなところで!!」


あまりに聞き覚えのある、タチの悪い怒鳴り声だった。ビクッと心臓が跳ねるくらいにはすぐに反応できてしまう、幽姫はそちらに目を向けた。


「爆豪くんっ?びっくりした……」
「カツキィ!アンタ誰に向かって物言ってんのよ!!」


――と、今度はすぐ隣でビクッと心臓が跳ねるような声がして。

「うっせえババアにゃ言ってねえだろーが!!」
「だからババア言うなってんでしょーが!!」

ガシャガシャと自転車を押して大股で近づいたかと思えば、スパァンッと良い音を立てて思いっきりのビンタだった。ッテェなクソ!!――自業自得でしょーが掃除はちゃんとやったんでしょうね!?――あまりに幽姫の生きてきたのとは別次元のやりとりをする二人、正直、あまり近寄りたくない気さえした。
というか、状況も今ひとつ飲み込めていないけど。

「つーかなんでババアが幽姫と一緒に居んだよ!」
「ハァ?幽姫って……」

彼がビシィッと人差し指で示すのを追うように、彼女が振り返ったところで、お互いようやく合点がいった。

――というか、なぜ気づかなかったのだろうか。赤いつり目も、明るい髪も、ゴローちゃんを肩に乗せるのも。どれもこれも全くもって、爆豪とその女性はよく似ていたというのに。もはや苦笑するしかなかった。



前<<>>次

[3/5]

>>Request
>>Top