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針のむしろは誰のせい - 02



「――ていう話だったよねー確か!」
「まあ……よく覚えてるね」
「いやぁ、あそこで喋ってるとそりゃねぇ」
「なんかごめんね?」

幽姫がつい謝ると、いいよいいよー!と葉隠の袖が左右に振られた。
あんまり迷惑はかけないようにしたいところだ、席を借りすぎないように気をつけます。

「爆豪くん猫嫌いなん?」
「え、別にそうじゃないと思うけど……結局猫カフェも一緒に行ってくれたし」
「ええ!?そんな怒鳴っといて結局行ったの!?」
「怒鳴るって、あんなの爆豪くんの通常運転だよ〜」
「まじか。アンタほんとよく付き合うよね」

麗日の問いかけに対してあっさり答えると、芦戸と耳郎は理解できないという風に声をあげた。

寮一階の共有スペース、テレビの前に陣取った1-A女子達の話題は、いつの間にか幽姫と爆豪のことになっていた。日々忙しいヒーロー科生活の中、そういう浮ついた話は少なく、唯一のカップルというわけで槍玉に挙げられることがある。
幽姫としてはやっぱり気恥ずかしいしやめて欲しいのだけれど、いくらヒーロー志望でも年頃の女の子は総じてこんなものなのだろうから、水を差さないようにと大人しくしている。

「猫カフェ、とは?」
「いろんな猫ちゃんと戯れながらお茶を飲めるところだよ〜。つまり天国みたいなところ」
「天国……!」
「霊現ちゃんにとっては天国なのかしらね」

相変わらず世間の流行には疎い八百万は幽姫の説明に目を輝かせたが、蛙吹としては少し言い過ぎに思える。とはいえ、私も行ってみたいですわ!じゃあ今度このメンバーで行こうよ!賛成ー!と盛り上がる彼女らは楽しそうだったので、楽しみだわ、とにっこり笑った。

「――あ、じゃああの時話してたのもそれのことか」

と、思い出したような耳郎の声。

「え、なになに?またイチャついてたの?」
「ちょ、イチャついてないよ芦戸さん!」
「んー、いやさ、こないだ隣で喋ってんの聞いちゃって――」


*  *


「ええ……やだよ……」
「なんで」
「わかってて聞いてるでしょ〜……」

この時は珍しく幽姫が情けない声をしていたので、耳郎はちらりと視線をやった。左隣は爆豪の席で、いつものように向かい合って会話する二人の声は、騒がしい休み時間の教室といえど注意すれば拾える。
スマホに繋げていた左耳のプラグを、さりげなく右耳のに差し替えた。

「知らねぇなぁ」
「嘘、だって面白がってるもの」

幽姫の声でちらっと爆豪の顔を伺ってみると、確かに何か企んでいるようなニヤニヤを浮かべている。対して幽姫はといえば、不満げに口を尖らせ目を細めて爆豪を見上げていた。
なんか、あんまり見たことない表情、盗み見するのも悪い気がしてすぐに目をそらした。はー、お熱いことで。

「よくそんなの見つけたね」
「偶然だよ、グーゼン」
「ほんとかなぁ……」

多分、葉隠が見たのと逆の構図である。爆豪のプレゼン――というかお誘い?――を幽姫が固辞しているっていう。

しかし幽姫は爆豪と違って、そう頑固な性格でもないはず。一体なにがそんなに嫌なのだろう。幽姫のことだから、爆豪のやることは大抵にこにこ受け入れてそうだと思っていたので、意外だ。

「やめとこう?ほら、前行った時爆豪くんも迷惑がってたじゃない?win-winなプランでいこう?映画とか」
「お前の見る映画はしょうもないんだよ」
「爆豪くんの好きな映画も目が疲れるでしょう」

じゃあショッピング――何買うんだよ――用事ないなぁ。じゃあ食べ歩きとか――太るぞ――ひどい!じゃあ爆豪くんは何がいいの――アウトドア系――疲れるからやだ――テメェヒーロー志望だろうがアホか。

全然win-winなプランが出てこない。そんなに趣味がズレてるのによく上手くいってるなぁ、と耳郎はその点に驚いた。呆れたとも言う。それだけ言い合って結局話が元に戻ってくるあたり。

「お前に案がないならこれで決定な」
「ええー。さっきから色々出してるのに」
「決定」
「ちょっと〜!」

幽姫は納得いかないと声をあげたが、爆豪の方は珍しく機嫌良さそうに目を細める。はー、楽しそうで何よりだわ。また呆れた。

「つーかこの間お前のわがまま付き合ってやっただろうが」
「う、そう言われると言い返せないかも……」

どうやらそういうことで丸め込まれたようだった。幽姫は深々とため息をついて、肩をすくめる。

「もう、お化け屋敷は懲り懲りなのになぁ」
「はっ」

え、何、霊現ってお化け屋敷無理なの?個性『霊媒』なのに?なんで?むしろ得意分野じゃないの?――傍から聞いている限り大変困惑なのだが、如何せん盗み聞きしている立場なので確認の仕様もない。というか。

「救いようのねぇ怖がりだな、幽姫チャンよぉ」
「えっ……ねえその幽姫ちゃんっていうのもう一回言って!ね〜!」
「はあ?皮肉もわかんねーのかこの電波!」
「電波じゃないんだけどなぁ」

――うん、あの間に割って入るのは流石に、無理だわ。



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