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針のむしろは誰のせい - 01



「ね〜爆豪くん、見てこれ、ここ行きたいの」
「勝手に行けや」
「え〜。一人で行っても仕方ないじゃない」
「知るかキョーミねーわ」

例のごとく、爆豪と幽姫は机ひとつ挟んで二人で喋っていた。幽姫がスマホ画面に映した何かをプレゼンしている様子だが、爆豪は一切折れる気配なし。相変わらずである。

彼女のお願いくらい聞いてあげなきゃ、みみっちいなぁ――なんて思いつつ、葉隠透は彼らに近づいた。爆豪の前で幽姫が座っているのは葉隠の席だが、もうすぐ授業開始のチャイムが鳴る。正直、この二人の間に割って入るのは少しばかり気後れする。
大抵、幽姫も真面目な生徒なので時間ギリギリまで話し込んでいることも珍しいのだが、この日は少し事情が違ったらしい。

「ねえ行こうよ、絶対癒されるよ〜」
「いらねーつってんだろ!猫バカかよ!」
「なにそれ初めて言われた」

幽姫も折れる気配なし、というかさすが、半ギレの爆豪相手に全く対応を変えない。葉隠達にはわからない神経である。

猫バカなんて称されるとは、一体なにをプレゼンしてるんだろうと気になってしまった。幽姫の斜め後ろに忍び寄って――なんせ葉隠は隠密派である――彼女のスマホ画面を覗けば、すぐ理解できた。

「ああ!最近できた猫カフェかぁ可愛いー!」
「うわっ、あ、葉隠さんか」

声をあげた葉隠にビクついて驚く仕草はしたものの、振り返ってすぐ苦笑。幽姫は、そうなの〜と言いながら葉隠に向けてもプレゼンを始めた。

「オープン前から気になってたんだけどね。サイト見てたらすっごい可愛い子がいたの!ゴローちゃん似の!」
「へえー……ゴローちゃん似なんだ……?」

言いながら見せつけてきた写真の猫が多分そうなのだろうけど、思っていたよりふくよかな猫だったので少し意外。ススっと画面を操作してみて、紹介ページトップに載っている白い子猫の方が、一般的に『すっごい可愛い』猫だとは思うけれど。

「わあ、猫のパンケーキだって!可愛い〜おいしそ〜!」
「そうそう、ね、私もそれ食べたいの〜!」

ついでにホームページに写真が載せられているスイーツにも当然目がいく。女子二人がキャッキャと騒いでいるのを、完全に蚊帳の外になった爆豪はつまらなさそうに睨んだ。

「よかったら葉隠さん行こうよ、爆豪くんが行ってくれないの」
「んんー!行きたいのは山々なんだけどなぁ」

自然な流れでそうなる。しかし葉隠はちゃんと残念そうに見えるよう、大げさに肩をすくめて見せた。

「私ほら、透明でしょ?急に触ったらビックリさせちゃうんだよね!よくひっかかれるし」
「えっ、そっかぁ……残念」

猫好きらしい幽姫にとってはあまりに残酷な仕打ちにでも思えたのか、目をパチリと瞬かせてから、葉隠以上に残念そうに眉を下げた。

「誘ってくれたのにごめんねぇ」
「ううん、いいの。仕方ないな〜、やっぱり一人で行こうかな」

幽姫はそう呟いて、あっごめんね、と葉隠の席を立った。爆豪を説得するのは諦めたらしい。フンと鼻を鳴らす爆豪は確かに、頑固そうなので望み薄か。

「……あ、そーだ!確か前に、上鳴がキョーミあるって言ってたよ」
「上鳴くん?」

どうせまたデートスポット探しの一環なのだろう、というのは察しがつく。幽姫も同様に思ったのか、なるほどね〜とクスクス笑った。上鳴なら爆豪つながりで幽姫も比較的仲がいいし、うん、ありなんじゃないかな?

「ねー上鳴ー!」
「んあ?なに?」

ということで早速葉隠がブンブン右腕を振り回して声をかけた。
ちょっと向こうにいた上鳴は当然こちらの話題など知りもせず、しかし女子の呼び出しとなると自然に引き寄せられでもするのか、あっさり葉隠達に歩み寄ってくる。

「新しい猫カフェ興味あるって言ってたよね!」
「あー、あそこな!あるある、え、なに行っちゃう?行っちゃう?」
「ノリノリだねぇ」

誘うまでもなく。あんな熱心にプレゼンされても動かない爆豪とは真逆である。
クスクス笑う幽姫が、スマホの画面を操作するそぶりを見せた時。

「――あーも、うっせえわ!お呼びでねえんだよアホ面!!」

「ええ!?なんで俺!?」
「ど、どーしたの爆豪くん急に」

ガタンッと無駄に大きく椅子を引いて席を立った爆豪が、未だ事情を知らない上鳴を怒鳴りつけたので驚きである。おおう、と葉隠も一瞬ビクッとなったが、幽姫はさすがに慣れたのかすぐにいつも通りの調子で問いかけた。
とはいえ爆豪の機嫌はそう単純でもないので、そんな幽姫をギロッと睨みつけるのはなかなかの迫力。

「テメェが猫猫うっせえからムカついただけだ!パンケーキくらい作ってやっから大人しくしとけクソ電波女!!」
「え、本当?嬉しい〜楽しみにしてる!」

――え、そんな話だったっけ?

葉隠は内心思ったのだけれど、実際、幽姫はパッと目を輝かせて嬉しそうにしたし、それを見た爆豪はチッと大きく舌打ちして席についたので、どうやらこの二人の間ではここで落ち着いたらしい。
あれ、猫カフェの話は?

「え、なんなの?俺結局なんで呼ばれたの?」
「あー……一緒に行ってくれる子、見つかるといいね!」
「そんだけ!?」

突然怒鳴られて、謎の応援だけしか得られなかった上鳴が今回一番の被害者である。まあ……ごめんね!



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