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似合いの二人 - 03



あの頃はまあ、なんだこいつらって感じも多少あったが。
あの後芦戸に聞いた話、幽姫が爆豪に気があるらしいことは、女子の間では密かに共有されていたそうだ。そこに切島が目の当たりにした爆豪の反応を見る限り、あーなるほどといった感想であった。

切島にとっては爆豪も幽姫も良い友人なので、気づいたからといって特段引っかき回そうとは思わない。多分なにもしなくても、あの二人ならそのうち落ち着くだろうと予想もしたし――思っていたより長いことウダウダしていたのは、ちょっと誤算だったが。

入学直後からなんだかんだと二人――と、多分、見えない一匹――はいつも一緒にいた。怖いもの知らずなのか非常識なのか、幽姫の言動は爆豪曰くの”電波”じみていて、切島だけでなく周りからすれば随分ハラハラさせられた。そして彼女に怒鳴り散らす爆豪も相当アレだというのはクラスメイトの共通認識である。
そんな二人だったのが、いつしか当然のように並ぶ姿は違和感をなくし、ハラハラは呆れと諦めと少しの微笑ましさに変わり、自然と『惚れた女』なんて口にしてしまうような色になる。
彼らの間に何があったかなんて、多分切島達にはわからない何かだろう、知る由もない。

切島にとっては、爆豪も幽姫もいい友人だ。その二人が揃って幸せならこっちも嬉しくなれるような、大切な友人達だ。

「インターンって大変?」
「……んん、まーな」
「そうだよね〜」

差がついちゃうなぁ、と幽姫が肩をすくめる。インターンに参加できたのはクラスの中でも数人で、未だ仮免未取得の爆豪はもちろん、行くあてがないらしい幽姫も機会には恵まれなかったそうだ。
校外活動は想像していた以上にハードであり刺激的であり、そして。

切島は思わず幽姫をじっと見つめてしまって、相手が不思議そうに首を傾げたところでハッとした。慌てて視線をテキストに落としたところで、さすがに誤魔化されるほど幽姫も甘くはない。

「どうかした?」
「いや、えーっと……」

珍しく歯切れの悪い返答に、幽姫はさらに怪訝そうに眉を寄せる。

隠そうとしていたわけではないのに、いざとなると改まって言い出しづらい。今更という気もする、お門違いな気もする。
それでもここ最近授業に身が入らない理由の一端でもあったりして……むしろ今が一番のチャンスかもしれない。

そうだ、よく考えれば、幽姫と二人でこうして向き合えるタイミングなんて珍しい。彼女はいつも彼の隣に並んでいて、そして彼は多分、切島の見立てによれば嫉妬深い方。その上プライドの高い男だ。

うじうじと気にかけて心を惑わすのは、やっぱり漢らしくない。そんなことでこの先の――近く起こるはずの『責務』を果たすことができるか。ほんの小さなわだかまり、ここで精算せずに、自分は――今度こそ誰かを救えるか。

「……霊現に、言わなきゃなんねーことが、あって」
「私に?」

全く心当たりがないという顔で幽姫が首を傾げる。そりゃそうか、こっちが勝手に引っかかってるだけだもんな。
もし爆豪のいる前で言えば、『自惚れんなクソ髪女々しいんだよ死ねボケ』くらいの暴言を返してきそうな、そんな話だ。

「――あの時俺らさ、“二人”を助けに行ったんだよ。そりゃ無謀だったと思うし、爆豪一人助けて――って言うと、キレられそうだな――連れて帰れたのも、奇跡的なもんだったと思う」

そこまで聞いて、ああ、と幽姫が小さく零した。切島が何の話をしているのかわかったようだ。

「でも俺にとっては、爆豪も霊現も大事なダチだからさ……二人とも、助けたかったんだ」

ヒーローは助けるものなんだ、助けられなかった自分を悔いた過去を持つ切島にしてみれば、あの夜、プロヒーローが保護したらしいから万々歳だ、なんてそんな風には納得がいかず。
そしてそんな引っ掛かりが、ここにきてやっぱり放っては行けないと。


「――お前のこと、助けに行ってやれなくて、悪かった」



ガチャン、と無駄に激しく開いたドアの音で、切島だけでなく向かい合わせの幽姫までギクリと肩を震わせた。

「あ、あ〜、爆豪くん!おかえり」
「よ、よう爆豪!」
「……ンだよテメェら気色悪りぃ」

再度ギクリ。爆豪はこれでいてやたらと察しのいい男でもある。不機嫌そうに細めた赤目が、何か見透かしでもしていないか。

「爆豪くんを待ってたんだよ〜」
「ハァ?」
「勉強してるの、ね、切島くん」
「あ、ああ、そうそう!」

切島より幾分冷静そうな幽姫の振りに慌てて乗っかることにした。数学のノートを取り上げて見せる幽姫に、爆豪は左の眉だけピクリと動かす。

「……二人で?」
「ん?うん、そうだね」

爆豪の低い声に頷く幽姫を見て、彼はチッと舌打ちを一つ。おっと、これは。

「バカばっか揃って、何が進むってんだあ?」
「進まないから爆豪くんを待ってたんだけど」
「知るか!寝ろ!」

また大きく舌打ちをして、爆豪はドスドス足音を立てて行ってしまった。帰っちゃうの?と幽姫は首を傾げていたが、切島からすればため息でもつきたいところだ。

「行っちゃった」
「悪りぃ、霊現……」
「え?なんで切島くんが謝るの」

――いや明らかに機嫌損ねてただろ、俺と二人きりで勉強してるなんて聞いて。
こりゃ今日は勉強教えてもらうのは無理かと切島は思ったが、幽姫は呑気に数学のノートを机に戻して開き直す。

「すぐ戻ってくるんじゃないかな。お風呂まだだし」
「お前ってなんつーか、気にしねーよなぁ」
「何を?」

きょとんと問い返す幽姫は、多分これだから上手くいってるんだろうな、と切島にもわかった。なんでも、と肩をすくめてそれ以上は言わないことにした。

「……というか、切島くんが気にしすぎなんじゃない?」
「え?」
「随分前の話だけど、急にどうしたの?」



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