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似合いの二人 - 02



「わりー爆豪、待たせた!」
「おっせえんだよクソ髪」

最近ご無沙汰だった呼び名で呼ばれて、切島は相手がちょっと不機嫌なのを敏感に感じ取った。言い出しっぺの切島の方が遅れてきたので気に入らないのだろうが、それを如実に態度に出すのは如何なものか。
そーゆーとこが八百万との人徳の差を産むんだよ、多分――と言ったら『教え殺してやる』という言葉さえ撤回して帰ってしまいそうだ。

一学期の1-Aはなかなか多忙だったもので、期末試験に不安を抱える生徒多数。切島もその一人である。上鳴や芦戸ほどではないが、中間試験の結果がクラス三位の爆豪に勉強を見てもらえるのならあやかりたい。

悪かったってともう一度謝罪し、鞄から苦手科目のノートと参考書を引っ張り出して、爆豪と向き合う席につく。そこで視界に入ったジュースのパッケージを見て、あっと声を漏らした。

「これこないだ入荷したやつじゃん!気になってたんだよなー、夏限定トロピカーラ」

細いストローが刺さった100ml入りの四角いパックジュース。カラフルなパッケージは目につきやすく、先日購買部に入荷されたのを知っていた。気にはなっていたものの、随分甘そうなフレーバー表記は漢らしさを是とする切島には少し手を出しづらい。というか、昼食には合いそうにないので結局買わずにここまで来たという感じである。

爆豪は、だからなんだと言いたげに顔をしかめる。勉強するつもりならさっさとやれというところか。残念ながら健全な学生たる切島としては、勉強道具を前に無関係なことに目移りしてしまうので仕方がないのだ。

「トロピカーラの、なんか鉄分取れるってやつあるだろ。あれで鉄哲の個性が強化されるかどうかって、そんな話してたんだよ。手軽で良いんじゃねーって思ったんだけど、よく考えたらジュースが動力源とか飯田と被っちまうよな」
「くそどうでもいい……ってオイなに勝手に飲もうとしてんだ!」
「え、ダメ?」

特に身のない雑談をしながらパックを手に取ったが、直後すごい勢いでぶん取られたので流石に驚いた。

「いーじゃん、一口くれよ」
「自分で買ってこいアホ!」
「んだよーケチくせー男らしくねー」

言っても百円プラス税のジュースなのに、そんなに嫌か。多少文句言われるくらいは、爆豪に関してはいつものことなので気にしないのだけれど。
思った以上に気に入らないといった顔で、小さいパックジュースを手中に収めるのはなんだか意外だ。

「他人のもん強請る方が男らしくねえだろが!」
「いや、そんな細かいこと気にする方が男らしくねえって!」

こんなしょうもないことで男らしいとかなんとかいう話ではないけれど、そう拒否されるとさらに興味がわく。ジュースをそんなに気に入っているのか、切島にムカついて意固地になっているのかはわからないが。
あの爆豪が前者である可能性を考えると尚更だ――けど、お?

「つか爆豪、そんなトロピカーラ好きだっけ?」

入学してから今まで三ヶ月、彼がスポーツドリンクと炭酸飲料以外のジュースを飲んでいるのを見た記憶はないはずだ。

特にこういう、甘いジュースはむしろ――と首を傾げている間に、大きく舌打ちした爆豪はストローの口をギリッと噛んで、当てつけのようにズルズル飲み干してしまった。あーっと声をあげるもすでに遅い。

「爆豪ってほんとみみっちいな」
「勝手に言ってろ!」

飲み干したジュースのパックは教室の隅のゴミ箱に向かって投げつけられ、見事シュートが決まった。特に嬉しそうでもない。
まったく、どうやらこれは切島にムカついて意固地になった方か。仕方がないので、夏限定トロピカーラはまた今度自分で買うことにしよう。

なんてことをしていた教室に、ガラッと扉を開いて少女の声がやって来た。

「ごめん爆豪くん、やっぱり私のノート書き写し間違えただけみたい……あ、切島くん戻ってたの」
「おー霊現。お前も勉強?」

現れたのは、こちらも切島の友人である幽姫だった。台詞の内容と手にしていたノートを見て聞いてみれば、うん、と当然頷きが返ってきた。

「数学、爆豪くんに教えてもらってたの〜」

ちょっと食い違ったから、先生に確認してもらいに行ってた――とのこと……お?

『教えてもらってた』という言葉に少し引っかかった。深く考える前に幽姫がパチリと瞬きひとつ。

「机にトロピカーラ置いてなかった?」
「あ、夏限定の?俺が一口くれって言ったら、目の前で全部飲み干したんだぜこいつ」
「ん……?」
「テメッ黙ってろや!!」

切島が告げ口すると、幽姫はきょとんと首を傾げて、逆に爆豪は激しく声を上げた。おおう、そんな焦るか?と一瞬驚いたが、直後の幽姫の反応でようやく切島にも合点がいった。


「え、爆豪くん飲んじゃったの……?」


小さな声で呟くように言う幽姫の顔色は、珍しいほどの赤。普段血色の悪い真っ白い頬が、ぱっと咲くように色づいた。それには切島どころか爆豪さえ驚いて、目を丸くする。

「お、おう?どうした?」
「あっ、別にそんな、気にしてないけど……」

切島が戸惑い気味に問いかけても、どこかズレた受け答えだった。ぷるぷる首を振る様が、彼女の困惑をありありと伝えてくる。

――あ、あー!そーゆーことか!

「なんだよ、気に食わねえなら新しいの買ってくりゃ良いだろーがッ!そんでチャラだろ!」
「わっ」

切島が何か言う前に、爆豪が怒鳴りながら自身の財布を投げつけた。流石のコントロール、ストレートに幽姫の胸に飛び込んで来たのを咄嗟に受け取っている。

「や、でも……」
「さっさと行けや!!あとストローは二本もらってこい!!」
「え、あ、うん……?」

何か反論しかけた様子だったが、爆豪の勢いに押される形で幽姫は教室を出て行った。
おそらく素直に購買で同じトロピカーラを再購入して、ストローは二本もらってくるのだろう。そういう奴だ。

「……前言撤回だぜ、爆豪」

切島はつい、しみじみと言った。

「惚れた女の間接キスを守るとか、らしくねえとこあんのな!」
「だっ――れが惚れた女だ!!ふざっけんなマジぶっ殺すぞクソ髪ィッ!!!!」

他に誰もいない教室に、大きな爆発音が響き渡った。
いや、お似合いだと思うぜ、お前ら。



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