×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -




ああ、お前らしいよ - 04



――『今回は駄目だったとしても……絶対諦めない』
――『ヒーロー科入って資格取得して……絶対お前らより立派にヒーローやってやる』

終わった。いいセンいってたと思うけど、結局一対一でヒーロー科生に負けた。結局そんなもんか。
けどそんなのを嘆くのは今更だ。今までそんなことの連続だ。今日はいいことがあった、他の誰かが『すごいよ』って言ってくれた。

そんな風に認められたのは――アイツ以来かもしれない。退場者の通路の角から飛び出してきた、息を切らした女子生徒。

「心操……!」
「……悪いな、負けた」

そんな台詞を吐くと、流石に疲労感がのしかかってきた。さっきまでは、緊張だか高揚だかで、全然何も感じなかったのにな。
悪いな、というのは、体育祭が近づく折、放課後何度も俺の教室で例年の体育祭のデータを分析していたことだったり、トレーニングについて口を挟んできたことだったり、予選で観察して得たヒーロー科生の情報を俺に教えたことだったり、そういうことについてだ。

夢野はしばし息を整えながら、俺の様子をじっと伺った。そんなになるまで走ってきたということは、多分、俺と緑谷出久の決着がついてから席を立ったのだろう。

「……はっ。なによ、アンタが勝とうが負けようが、私には関係ないっつーの」

一つ息をついてから飛び出した言葉は、相変わらず可愛げがないものだった。関係ないってんなら、どうしてここに来る必要があったんだか。

「あっそ」
「むしろ笑いに来てやったのよ、カワイソーなシンソーくん!」
「カワイソー、ね」

可哀想ではない、ただの実力不足だ。個性で負けて、多分、単純な身体能力でも負けていた。戦闘経験の差というのを抜きにしても、俺より小柄だったがしっかり鍛えていたのはわかったんだ。
素直に認める、俺は負けた。

「さっさと降参させればよかったのよ、そしたら数秒で決着ついたのに。バカじゃないの」
「……ああ、そうだな」
「あそこまでやって、負けるとかあり得ないんですけど。チョー無様、私笑っちゃった」
「そうかい」

笑っちゃったという割には、むすっとした表情が晴れない。俺の淡々とした受け答えに、夢野はまた眉を寄せる。
本当に何しにきたんだ、コイツ。手を貸してやったのに負けるなんて、と声高に責められると思ったのに、そんな素振りは特にない。

そうしたら、いつもの調子で、お前が勝手に騒いだんだろ、とでも言ってやろうと思っていたのに。

「……違う、私、そんなこと言いにきたんじゃない」

俯きがちに言うものだから、表情も見えなければ低い声も聞き取りづらかった。背後のステージの方はまだ騒がしい。きっと二回戦三回戦と、どんどんヒートアップしていくだろう。

なぜか取り残されたような気分になった。ざわめきが遠くなり、夢野の“らしくない”声がよく聞こえた。

「――心操に、負けて欲しくなかった……」
「……え」

そう、あまりにらしくないことを言うから、数瞬反応できなかった。あまりに聞き慣れない、耳に馴染まない言葉だったから。

「なんで勝てなかったんだろ。やれることやったのに、心操頑張ってたの私知ってるのに、なんであんな風に負けたんだろう」

お得意の、俺への嫌味かと一瞬思った。が、それにしてはいつもの刺々しさもなければ、独り言のようなうわ言のようなものに聞こえてきた。
俯いたままでは、お得意の性格の悪い笑みも見えない。

「――もう少しだったのに、なんでそこまで、連れていけなかったんだろ……っ」
「おい、なんでお前が泣くんだよ」
「はっ?泣いてないし、テキトーなこと言わないでよっ」

確かに、泣いてるかどうか定かではない。顔が見えてないのだから仕方がない。しかし少し震えた声や、鼻をすする音、目を擦る仕草くらいは目についた。

「……悪かったよ、色々、気回してくれたのにさ」
「そ、んなことしてねーし!もう、ほっといてよ!」
「はいはい。続きの試合見るだろ、さっさと席戻るぞ」
「だから、私は泣いてないからね、絶対!」
「わかったよ、俺の勘違いだ」

いつまでも立ち尽くしているわけにもいかない。多少強引ではあったが、夢野の手を引いて歩き出した。
甲に残っていた雫が俺の親指に触れて、やっぱり流石に動揺する。指先を少し伸ばして拭ってやると、俺のより小さい手がびくりと震えた。

擦らない方がいいらしいよ、と言うと、知ってるわよ何回も言ってバカみたい、と返ってきた。何回もって、俺前にもそんなこと言ったっけ。



前<<>>次

[4/6]

>>Request
>>Top