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ああ、お前らしいよ - 02



夏休みも中盤である。色々あった一年ヒーロー科生であるが、まだまだ大きなイベントが控えていた。ヒーロー仮免許試験。それに合格することは、憧れのヒーローに大きく近づく一歩となるに違いない。

さて、試験に向けてより効率よく個性を発揮できるよう、必要があれば戦闘服を改造することも可能だという。個性を操るに当たって人一倍不安要素のある――そして必ず克服せねばならない――緑谷は、サポート科有する工房に向かっていた。

先日一度訪れた際は胴がねじ切られそうになったりなかなか大変だったが、その結果今後の方向性が見えたのは有意義だったと言える。その時発目やパワーローダーと相談した、脚部のサポートアイテムの試作品が出来たと連絡があった。なんとも仕事が早い。

工房の頑丈な扉を強めに叩いてから扉を開ける。

「こんにちは、1Aの緑谷――」

ドガァァァンッ。
「ああ――!!ワタシのベイビーが――!!」

ああ、デジャブだ――思いながら爆風で隣の工房の前までふっ飛ばされた。
説教モードに入ったパワーローダーの声と、それを聞き流して爆発したベイビーを嘆く発目の声が遠い。今ので試作品壊れてたらどうしよ――と、現実逃避気味に考えた一瞬がまずかった。

「ちょっと発目!!アンタまた爆発させて――!!」
「ぐふぁっ」

思い切り腹を踏みつけられて、変な声が出た。扉が開いて飛び出してきた人物はその声で緑谷の存在に気づいたようで、ひゃっ!?と声をあげてすぐに飛び退いた。が。

「ああ――!!アンタ……!!つかそんなとこで何転がってんのよキッモ!!サイアクなんですけど――!!」



「――ほんと、すまんね。うちの奴らは揃いも揃って」
「うっざ」
「聞こえてるよ夢野」
「はーいすみませーん」
「あはは……」

綺麗な顔には、依然納得のいっていないぶすくれた表情が浮かんでいる。
夢野というらしい彼女も、発目同様サポート科の一年生らしい。クラスは違うというが、先ほどの爆発騒動について議論している様子は、仲良くはなくとも壁を感じない。あの発目と対等な友人関係を築ける人物がいるなんて。

「発目ェ、アンタが余計な事するから私が怒られたじゃん。ふざけんなっつの」
「おや、それは心外です!私のどっ可愛いベイビーと、夢野さんの罵詈雑言に、どんな因果関係があるのです?」
「そっちの爆発のせいで、私の作業机散々なことになったし、コレクションも――あーもう!とにかくムカついたからこーいうことになるの、わかる!?」
「はあ。よくわかりません」

うっざ!!とまた声を上げる彼女は、どうやら随分過激な性格らしい。なんだか幼馴染の彼を連想させて、緑谷は無意識に息を潜め、彼女らのやりとりが終わるのを待っていた。

「はーもう!今日はなんなのよ、絶対厄日だ、最ッ悪!!」

――それにしても、どこかで見たことあるような……。
緑谷はそんな引っ掛かりをぬぐい切れず、イライラと顔をしかめる夢野の顔をちらりと見る。表情こそあれだが、はっきりした目鼻立ちの綺麗な顔立ちは印象に残りやすいに違いない。
他学科の生徒と関わる機会はそう多くないので、あったとしたら……体育祭、とか?

「ちょっと。緑谷出久さっきからなんなの、視線ムカつくんですけど?」
「はっ、ご、ごめんなさい!あの、他意はないです……!」

顔を伺っていたのがバレたらしい。思わず敬語になってしまった。夢野はフンと鼻を鳴らして、それ以上は何も言わなかった。そういえば、彼女には名前を覚えられているらしい。騎馬戦でチームになった発目には、すっかり忘れ去られていたのに……と考えると、社会性という点では夢野の方がまだまともなのかもしれない。とはいえ、苦手なタイプであることは変わらない。

「発目!とりあえず、もう爆発させんのやめてよ!絶対だからね!」
「努力はします」
「その言葉、何回聞いたことか……」

その度に反故にされてきたのだろう。最後の一言には同情を禁じ得なかった。
結局、一つため息をついて発目のことは諦めたようだ。夢野が工房を出ようとするのを尻目に、さて!とあっさり表情を変える発目は、もう誰にも止められない。

「コスチュームの改良ですね。サポーターの方はおそらくこちらの試作品でほぼ問題ないと思うのですが、フットパーツについては実際に使ってみないと改善点もわかりませんからね!」
「おお……!」

自信満々に提供された、肘まで覆う腕用のサポーターと、脚部の動作を補助するためのフットパーツアイテム。相談に来たのはつい数日前なのに、早々にこんなものが準備できるなんて、科学者ってすごい――

「――ちょっと見せなさいよ」
「ウワッ!?」

完全に油断していた背後からぬっと手が伸びてきて、緑谷の前からフットパーツの片方が取り上げられた。さっさと工房を出て行ったと思っていた夢野が、真面目な顔で発目の出したアイテムをじっくり観察している。

「……ふーん。発目の好きそうな感じだわ」
「でしょう!?どっ可愛いでしょう!?」

目を輝かせる発目はどうやら褒められたと思ったらしい。が、依然目を細めて観察を続ける夢野が、緑谷にはあまり納得がいっていないように見えた。

「あのさぁ発目。アンタの趣味はいいけど、これをこの冴えないコスチュームに合わせること考えた?」
「さ、冴えない……」

緑谷のコスチューム姿を指して、ナチュラルに言い放つ。しかし、確かに今試作品として提供されたパーツは、軽量の特殊プラスチックを素材にして、強いていえば飯田や麗日のコスチュームに似合いそうな雰囲気である。これまでいくつか見せてもらった発目のサポートアイテムが、どれもロボットパーツのようなものだったので、緑谷からすればそんなものかと思ってしまっていたが。

「ていうか、緑谷出久はパンチ中心の立ち回りじゃなかった?」
「あ、その、腕への負担を抑えて、脚中心に移行しようと思ってて……」
「あっそ、なるほど。でも脚中心となると、やっぱり更に機動性重視になってくると思うわけ。じゃあこんなデカいパーツはむしろ邪魔。体全体を使うなら、可動域のサポーターと最小限のウェポン搭載の方向で考えた方がいいんじゃない」
「ふむ、なるほど。これも可動域を邪魔しない設計にしたつもりですが、機動性を上げるのであれば、より空気抵抗の少ない形状をということでしょうか?」
「それもあるけど、一番はコスチュームとの一体感が大事という話で、アイテムはなるべく身体機能の延長の域に収まるものがいいってこと。変な小細工じゃなくて、直感的に作動する機能の方が使い勝手いいんじゃない、近接戦闘において身一つに敵うものはないんだから」
「ほうほう、なるほど!身体機能の延長にアイテムを置く、それは盲点でした!サポーターというのであればより柔軟な素材が必要ですね。耐火性を考慮するのであればやはりゴムですか」
「一般的にはSBRかNBRあたりがあるけど、この間ちょうど知り合いの研究所からシート用の面白そうなサンプルをもらったから、使えそうならもう少し調整して都合つけてもらえるか」
「ああ、しかし納品の期日が結構差し迫っていてですね。仮免許試験があるそうです」

「……仮免許試験」

突然会話を止めた夢野に、発目は首を傾げた。サポート科の会話にあまりついていけなくなっていた緑谷も、同様に不思議に思う。第一印象の過激さが鳴りを潜め、議論に熱中する彼女にはいくらか好感が持てたのだが。
夢野は眉を寄せて、緑谷に目を向けた。

「何、アンタら仮免とるの」
「は、はい。その予定です」
「……一年で仮免ね、流石ですことー」

ふんと鼻を鳴らして、気に入らないといった様子で肩をすくめる。
なんだかとても緑谷に対して対抗意識があるようだが、どうしてなのだろう。少し考えて、それこそ体育祭の頃に言われた言葉を思い出す。

「あの、夢野さんって、もしかしてヒーロー志望だったの?」
「はああ?」
「アッごめんなさいっ」

思い切り嫌な顔をされた。見当違いだったらしい。慌てて謝ると、それ以上は何も言われなかった。

普通科や他の科には、ヒーロー科を志望したものの滑り止めで入学した者が一定いるらしい。実際、緑谷はそのうちの一人と対峙して、心苦しくも自らの夢のために、その彼を負かしたことがある。

「適当なこと言わないで、だいたい私はアンタのこと許してないから」
「え、許す?」
「でもサンプルは見せてあげる。発目、見るでしょ」
「はい是非」

なんだか不思議なことを言われたが、確かめる前に夢野と発目は連れ立って工房を出ていってしまった。
ええー、と困惑していると、それまで学生達のやりとりを見守っていたパワーローダーが口を開いた。

「発目の場合はサポートアイテムだが、夢野はコスチューム制作に興味があってね。ヒーロースーツとか、そういうやつ。その素材は多岐に渡るから、入学してから色々とサンプル揃えてるのさ。見せてもらいにいきな、まあまあすごいから」
「はあ……夢野さんって、発目さんと同じ感じなんですか?工房に篭って制作活動、みたいな」
「あー、そりゃ違うね。発目は、まァ才能あるから、一人で全部やるのが楽しいってタイプだが……夢野は一定社会性がある。どっちかってーと他人と協力して制作する時に真価を発揮するタイプだ。今の見てたろ、あの発目とああも自然に協力姿勢を取れる奴は、なかなかいないと思うね」
「……確かに」

パワーローダー曰く、現時点で二、三の研究所や研究室と連絡を取り合って、教えを乞うたり共同研究を開始したりしているらしい。職人気質な生徒が多いサポート科の中では、珍しい部類だそうだ。
そもそも、とパワーローダーは続けた。

「よくは知らんが、彼女が制作活動に熱心なのは、それこそ”誰か”のためらしいね」
「誰かって……」
「さぁね。ただ、体育祭終わったあたりから顕著な気はするよ……なんかわかっても指摘しないでやってね、夢野は痛いところ突かれると途端に反発する奴だから」

ああ、そういう人には覚えがあるので肝に命じておきます……緑谷は内心呟きつつ、パワーローダーに軽く礼を述べてから隣の工房に向かった。



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