×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




ああ、お前らしいよ - 01



前を歩く背格好から、ああアイツか、とわかってしまうのは、なんとなく気まずいというか。なんにせよ、別に声をかける用もないので、一定の距離を保って歩く。
学生寮から校舎へ、そして職員室へ。俺の前をずっと歩いていくのは珍しい。いつもは途中で、入り浸っているらしい工房へ向かうはずだが。

職員室に入っていくのを見て、少し躊躇しつつ同様に入室する。失礼しますとは一応言うが、夏休み中なこともあって、教職員は二、三名だった。各教室や施設の鍵を管理しているボードを見ると、アイツもその場に立っていた。
今日は厄日か、と一瞬思ってしまった。別に会いたくないわけではないが、会わなくて済むならその方が穏やかだ。

「……よう、何してんだ」
「ひゃっ!?」

声をかけながらちょんと肩を突くと、予想以上に驚かれてこっちまでびっくりした。ババッと勢いよく振り返った夢野は案の定、きつい目で俺を睨み上げる。

「なによ、悪趣味なやつ!ちょっと油断してただけなんだから!調子乗んないでよ!?」
「はいはい。朝から元気だな、お前」

きゃんきゃん声高にまくし立てられ、適当に受け流すと心操のくせにナマイキ!!とまた声が上がる。

「静かにしろ、職員室だぞ」
「ぐっ……」

どうもまた俺にムカついたようだったが、注意したのが功を奏したらしくそれ以上の反論はなかった。代わりに一層目つきは悪くなったが。

「なんの鍵だ?工房?」
「な、なんで知ってんのよ」
「当たりかよ。毎日ご苦労さん」
「は?……ちょっと、違う、私が使ってるの第二工房」
「へーへー」

工房の鍵が並んでいる段は結構上の方で、夢野の身長では少し取りにくいかもしれない。そう思って言われた通りに第二工房の鍵をとり、ほら、と渡してやる。何か言いたげに眉を寄せてそれを受け取る夢野から、ありがとうの一言もない。もともと期待なんてしていないが。

ついでに自分の目的であるトレーニングルームの鍵も取って、職員室を出る。意外なことに、夢野はさっさと一人で工房に行くわけでもなく、俺と並んで歩き出した。

「ねえ、さっきの。毎日ってなんで知ってんのよ」
「ああ。お前だいたい同じ時間に歩いてるだろ、被るんだよ」
「はっ?じゃあ声かければいいじゃん、ストーカーかよキモい」
「朝からお前のテンション疲れるんだよ」
「なーによそれ!失礼じゃない!?」

そういうところだろ、と内心思いながら、密かにため息をつく。バレたらまたギャーギャーうるさいに違いないのだ。

夢野夢子、同じ中学から進学してきたサポート科の一年生。
中学時代は、強いていえば『いじめっ子といじめられっ子』の関係に近かったが、高校に進学してからはそんなに拗れた関係というわけでもない。性格悪い女だが、一応ほんの少しは良識を身につけたらしい。というか、まあ、お互いいくらか思うところがあったのだろう。

俺のクラスメイトからは『可愛いけど性格キツイ他学科生』というレッテルを貼られているらしい。で、俺はその『被害者』だそうだ。以前俺のクラスにきて、散々俺を罵って――要件は別にあったが、それは大したことのない内容だった――いたのが、随分印象付けられているらしい。

「……あのさ、ってことは、心操も毎日学校来てるの?」
「あー……まあ」
「トレーニング?上手くいってんの?」

目敏い。多分、先ほど俺がトレーニングルームの鍵をとったのを見て気づいたのだろう。
あまり突かれたくないところだった――特にコイツには。

俺が急に黙り込んだので、夢野が機嫌を損ねた気配がする。なんとか言いなさいよ、とまたきゃんきゃん。ほんと、朝から元気だな、なにがそんなに気になるってんだ。

「ま、まあ、ちょっとは筋肉付いてきてるみたいだし?心操の割にはちゃんと身体鍛えてんじゃん?ねえ、ちょっと!私が聞いてるのに――」
「――別に、お前に関係ないだろ」

面倒臭いのと後ろめたいのとで、ボソッと一言で切り捨てた。
夢野は途中で言葉をやめて、隣を歩いていた足を止めた。

生意気だとか言って騒ぐかと思ったが、二歩先で振り返った時、夢野が思っていた以上に険しい顔をしていたので目を瞠る。なんとなく、覚えのある顔つき。

「……なによそれ!心操ってほんと、バカ!!信じらんない!!」

顔まで赤くしてそう怒鳴り、夢野は俺に背を向けて走って行ってしまった。あ、と一瞬伸ばしかけた腕をすぐに下ろす。
別に止めたかったわけじゃない、アイツのことだから多分泣くようなこともないだろう。心配することじゃない。

……何か、言いたかったことでもあったのか。最近少し、夢野の言動の裏がわかるようになってきた。苦しそうに眉を寄せた時は、何か言いたいことを暴言で隠している時。
しかし、その内容までは、ただの『被害者』である俺には読み取れない。

工房に向かうのとは逆方向に、俺の隣をついてきたのにも、何か意味があったのかもしれない。



前<<|>>次

[1/6]

>>Request
>>Top