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ラスト・アタック - 03



一通り私の傷心を慰めてもらって――出久からすれば迷惑極まりないだろうに、文句の一つも言わないのは人が良すぎる――時間も遅いから、と紳士的な理由で家まで送ってもらってしまった。

「ごめんね出久。今日はありがと」
「ううん。立ち直れたならよかった」

正直まだ立ち直れたと言い切ることはできないが。出久がにこにこして言うので、私もへらりと笑っておいた。きっとそのうち、確かに立ち直ることもできるだろう。
もうすぐ中学は卒業する。私は普通の公立高校へ、勝己は雄英のヒーロー科へ。

「……遅すぎるとは思うけど、出久。ヒーロー科合格、おめでとう」

そう言えば出久は少し照れくさそうに笑って、ありがとう、としみじみ答えた。無個性のデクなんて言われていた彼も、ついに勝己と同じ雄英高校ヒーロー科へ入学が決まった。この一年本当に必死に頑張っていたのは、断片しか知らない私にもわかる。おめでとう、は本心から出た言葉。

「……あのね、僕が言うことじゃないかもしれないんだけど」

出久は少し照れくさそうに、口を開いた。

「僕、夢子ちゃんは個性使ってない時が、一番魅力的だと思うよ」

なんて、と誤魔化すように笑った。

他人により好かれる性格を演じるこの個性を前に、出久がそう言ってくれたのは私にはとても嬉しいことだ。八方美人な私より、素の私が好きだって。

「ありがとう、出久!」

だから、また素直に笑うことができた。出久は嬉しそうに頷く。
やっぱり、私の自慢の幼馴染みはすごいなぁ。


「――デク!てめえ何してんだ」


瞬間、私の顔が強ばったのが自覚できた。まったく予想していなかった、まさか彼がこの場に現れるなんてこと。
出久は私の背後に目をやって、少し困った顔をした。

「かっちゃん」
「出久、送ってくれてありがと!じゃあまた」
「あっ……うん、また」

出久の呟いた名前がきっかけになって、私は早口に別れを告げると自宅の門を開いて中に入った。何か言いたげにした出久だったが、結局私の意向を汲んで軽く手を振っただけだった。
意識して視線は向けなかった。勝己の家は私の家の斜向かい、背を向けて自宅に入れば、姿を見ることもない。

――『二度とそのツラ見せんな』
低い声が思い出されて、彼を見たら泣いてしまいそう。

*  *

「かっちゃん、なんで夢子ちゃんの告白断ったの?」

デクが一丁前に俺に意見すんじゃねえ。睨みつけてやっても、生意気なことに真面目くさった目はそのままだ。

「ンなことテメエに関係ねえだろ!」
「それはそうだけど……でも、夢子ちゃんのこと好きなんでしょ?」

そう問われた途端、苛立ちと羞恥でカッと頭に血が上るのがわかった。

「誰が!あんな上っ面だけの女」
――我ながら、薄っぺらい反論にしか思えない。

デクは俺をじっと見て、どこか呆れたような表情を見せた。
腹が立つ、出来損ないのデクが、俺の何を知ってる。あいつの何を知ってる。二人揃ってどんな会話をしてたんだよ、想像するだけで腹の底が煮えるように苛立つ。

「かっちゃんも知ってるでしょ、夢子ちゃんの個性。上っ面だけなんて子じゃないって……」
「うっせえ!知るかンなこと、どうでもいいんだよ」

昨日、あの時、あの場で奴は黙り込んだ。俺の前で、黙り込んだ挙句、しょうもない言葉を連ねて誤魔化そうとした。それがどうしても許せない。


――そうだ、俺はずっと夢子のことが好きだった。だからこそ許せなかった、当然の話だ。



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