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ラスト・アタック - 02



「どうしよ出久〜!」
「夢子ちゃん、またかっちゃんと何かあったの?」

さすが、話のわかる出久。良い幼馴染みを持てて嬉しいよ。でも今日の私は、その優しさでもっても対抗しきれない悲しみと絶望から逃げられない。

「二度と顔見せんなって言われた……」
「夢子ちゃん何言ったの!?」

さすがにそこまでの事態は想定していなかったのか、出久は目を見開いて声を上げた。

「告白しに行ったんじゃないの!?」
「そ、そのつもりだったよ!」

出久には事前に話していた。昨日、放課後、勝己に告白。出久はちょっと驚いた顔をしたけど、やっとかぁ、と安心したように笑ってくれた。
それなのに。

「なのにかっちゃんを怒らせたの?」
「うう……私が悪いの、私が悪いんだけどやっぱりショックだよぉ……」

弱音を吐いてベッドにうつ伏せる私に、出久が乾いた苦笑をするのがわかった。
勝己と出久は私の大事な幼馴染みだ。物心ついた時には一緒にいて、勝己の個性が現れた時も、出久が“無個性”と判明した時も覚えている。
出久は幼馴染みの親友。でも勝己は、私にとっては、親友と言い張るには後ろめたい相手で――。

がちゃり、と出久の部屋の扉が開く音を聞いた時には、私はベッドの上でビシッと背筋を伸ばした正座になっていた。

「夢子ちゃん、こんにちは〜。もう出久ったらお茶も出さないで!」
「おばさん!ああ、もうそんな、お気づかいなく〜!」
「ふふふ、最近受験に忙しかったからねえ。久しぶりに夢子ちゃんの元気な顔見れて嬉しいわ!ゆっくりしてってね」
「ありがとうございまーす!……はぁぁ」

出久のお母さんが二人分のお茶を置いて出ていった。扉が閉まった途端、私はまたベッドに倒れ込む。深いため息と共に。

「相変わらず、すごい“個性”だね」

出久がやっぱり苦笑した。

「すごくなんか……こんなの」

“無個性”と散々からかわれてきた出久に言うのはよくない気もするけど、私の個性は明らかにただの“没個性”だ。

『八方美人』。誰か他人と相対する時、その相手に好かれるような性格・態度・思考回路になる個性。世渡りには有用な個性であるが、勝己の『爆破』みたいな派手でヒーロー向きのに比べれば地味な個性だ。

現実的にも前時代的意味でも、まさしくただの“没個性”。それが私だ。

「……これのおかげで、勝己にも嫌われちゃったし」
「き、嫌われたかどうかはわからないじゃない。希望持とう!」
「いずくぅ……」

本当に、出久みたいな幼馴染みを持てた私は幸せだ。こんな私にも優しくしてくれる。

私の個性の特徴として、変わり身の早さが挙げられる。さっきの、『告白に失敗して落ち込む女の子』から『元気で礼儀正しい女の子』になったのもその一つ。
そして、『出久に感謝している女の子』から『無個性のデクをいじめる嫌な奴』にも、私は日常的に変わり身している。上辺だけではない。嫌な奴である私は勝己の隣で、無個性の出久を本当に見下しているし、いじめたって何も悪い事じゃないと本気で思っている。今この時の私は、その思考はどう考えてもおかしいと思うのだけど。

ひとえに、それが『勝己向け』の性格・態度・思考回路だからというだけの理由。

「っていうか、告白失敗したのはそのせいなの?」
「そう!そうなの!」

私はばっと出久に顔を寄せる。うわっとたじろがれたが気にはしない。

「私、勝己に『好き』って言えなかったの……!」

――『お前、俺のこと好きなのかよ』
もちろん、当然、ずっとそうだったよ。そうじゃなきゃ告白なんてするわけないでしょう。気持ちの伴わない言葉なんて、勝己は大嫌いだってちゃんと知ってるもの。

そのうちの一つだって、ちゃんと口から出ていかなかった。多分個性のせいだ。つまり、勝己向けの私は、そんな小っ恥ずかしい台詞を口に出来る素直さを持っていないから。

「え、なに?告白したんじゃないの?」
「『付き合って』は言えたの。でも『好き』って言えなかったの。そんな素直な性格してないんだよ、勝己向けには!」
「ああ……だから怒ったんだね、かっちゃん」

出久はようやく事の次第を理解して頷いた。

「……でも、だからってあんな風に怒らなくてもいいのに」

ショックだったなぁ。本気で忌々しそうに私を睨んで、地をはうような低い声。いつもの勝己の、荒々しいだけの罵声なら慣れっこなのに。
思わず呟くと、出久は苦笑する。それに関してはなにも触れず、続いた言葉はアドバイスだ。

「もう少し、素直になれればいいね」
「うん……でも、つい個性使っちゃう。嫌われたくないの」

好かれたい、と意識した時点で、私の個性は発動する。ずっと勝己向けの性格を常に発動してきた私は、今更彼の前で素直な性格の自分を出すことができなくなった。

勝己向けの私は、素の自分から程遠い。思考は軽いし、ただ勝己のご機嫌とっとけばいいって思ってる節がある。そんな子が勝己の特別になるれるわけないのに、そういうことになっているからどうしようもない。

「かっちゃんは夢子ちゃんのこと嫌ったりしないよ。絶対」

出久は力強く言ってくれるが、どうしてそう言い切れるのか私には自信が無い。



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