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ラスト・アタック - 01



「私と付き合って」
「あ?」


言い放たれた言葉を理解する前に、いつもの調子で聞き返してしまった。いや、悪いのは相手の方だ。まるでいつもの調子で、甘さの一つもないような声で、口調で、言ったから。

「だから。私と付き合ってよ、勝己」
「……そういう態度か、それ」

俺が思わず指摘すれば、夢子はちょっと首を傾げた。
腕を組んで、住宅街の真ん中、コンクリートの道路の上に仁王立ち――その態度が、幼馴染みに告白をする態度かって言ってんだよ。

「そんなことどうでも良くない?」

しれっとそんな風に返される。どうでもいいって?どこをどう取っても看過できる話じゃないだろ。

昔から、それこそ互いの物心ついた時から一緒に育ってきた相手だ。そんな適当な物言いで、どうにかできるものなのか。
もっと何かあるだろうが。俺がずっとお前に抱いていた、腹立たしいドス黒いめんどくさい思いのような。
また、心の奥にドロドロした何かが流れ込んで、その不快感に眉を寄せる。

「冗談のつもりだったらまじ殺すぞ」
「いやいや、さすがに冗談でこんなこと言うわけないっしょ」

夢子はケラケラ笑う。その様もやはり、どうしてもいつもの日常的な会話の域を出ない。なんでだ、今まさに告白の最中だなんて微塵も思えない。

「……お前、俺のこと好きなのかよ」

思わず聞いてしまうほどの態度。
そして、相手ははたと口を閉じた。

――は?なんで黙ってんだよ。

「おい」
「……だってほら。勝己さ、雄英受かったんでしょ」
――……はあ?

「前から勝己ってやばいなーって思ってたけどさ!個性すごいのに勉強もできるし」

へらへら笑って、夢子は続ける。雄英なんて超難関受かるなんて、とか、さすが天才肌の奴は違うよねえ、とか、そんなことをつらつらと。
本当に、腹が立つ。

「……質問に答えろや」

つい声が低くなる。夢子はようやく、ぴたりと笑うのをやめた。少しだけ困ったように揺れた瞳をジロリと睨みつけて。

「どういうつもりで、ンなこと言い出したのかって聞いてんだよ俺は」

そう、再度問い詰める。

「……」

――なんで黙る。
――なんでお前、そんな薄っぺらいことしか言わねえんだよ。

幼馴染みだぞ。互いの物心ついた時から一緒の幼馴染みだろうが。そんな、上っ面しか知らない奴らが俺に媚び売る時みてぇな、軽い評価を俺に向かって口にしやがって。

ふざけんじゃねえ。また、ドロドロした何かが奥から滲んで、すっかり心中を黒に塗りつぶしてしまう。いつもそう。コイツとこうして、軽い会話を繰り返す度に支配される感情。原因も自覚済みの、どうしようもなく不毛なもの、どうしてお前にはねぇんだろうな。

俺ばっかり。

「……チッ」

夢子から俺の望む答えが戻ってくるわけがない。それはもう何年も前からわかっていたことで、諦めようとしていたことで、今更求めるつもりもないはずだったのに――そのくせ、酷く落胆している自分が確かにいるのだ。

「そうかよ、じゃあな」
「……え」

舌打ちに続き、一言投げつけて俺は夢子に背を向けた。どうしようもない苛立ちの一端でも、ぶつかってしまえばいい。そう思いながら、わざと足音を立てて歩きだす。それを見た夢子の戸惑うような声が小さく聞こえ、すぐに俺の名前を呼ぶ声も。

「待って、勝己……返事はっ?」
「……返事だァ?」

この期に及んで呑気な質問だ。俺はゆっくり足を止め、首だけひねって夢子を振り返った。


「――お断りに決まってんだろカス。二度とそのツラ見せんな」


中学三年、十五歳の冬、放課後。俺は幼馴染みの一人に決定的な別れを告げた。諦めがついたともいう。
しかし、最後の最後に夢子が見せたのは、ぐっと眉を下げた後悔の表情。快活に振る舞う夢子のそんな顔、いつぶりに見ただろう。

そんなお前だけは、やっぱり少し、諦めきれないような――そんな思いを振り切るように、俺はさらに乱暴な歩調で帰路を辿った。

ラスト・アタック



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