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今でも君を、今からでも - 03



一次試験はチーム戦というか、ちょっとばかし肩身の狭い思いをしつつ先輩方のサポートに徹していれば、特に危なげなく通過できた。というか、してしまったというか……こんな私が通過してしまうなんて、残り三十数枠を死に物狂いで奪い合わねばならない他校の上級生に申し訳ない。

私を早々に先輩方の中に一人ほっぽり出して単独行動した挙句、控え室に行けば当然のごとく知らない人相手に熱苦しくヒーロー談義をしている夜嵐くんには、ちょっと呆れる。声をかけて話を聞くと、なんと百数名を一気に落として一番に合格したのは彼だったと言うではないか――予想はしてた。そんな派手かつ熱苦しいことをするのは彼くらいのものだ。

「肉倉先輩落ちちゃったんスか!!」
「先走って単独行動するからだ、あの劇場型男!おまえらもだ!一年の夜嵐はともかく……ケミィ!ダメよ!」
「ハァイ」

夢野を見習いなさい!っていうのは一言余計です先輩。私なんてどうすればいいかわからなくてついて回ってただけだ。

毛原先輩が雄英のところに謝罪に行くと言い出したので、少し身構える。規律を重んじる士傑生として、謝罪には雁首揃えて赴かねばならない。が、でもなぁ……夜嵐くんの陰に隠れてればバレないかな。

二次試験の筋書きが発表されて、毛原先輩を筆頭に雄英高校一年生の彼らに声をかける。ああ、体育祭でめっちゃ拘束されてた人だ……肉倉先輩の嫌いそうなタイプだものなぁ、という感じ。

「――雄英とは、良い関係を築き上げていきたい。すまなかったね」

はあ、と夜嵐くんの陰でため息をついて、さっさと踵を返そうとする。全部毛原先輩がやってくれたし夜嵐くんなんて無駄に目立つからきっとバレてない大丈夫――

「――おい」

と思った瞬間、パシリと手首を掴まれて大袈裟にビクッとしてしまった。
坊主の奴も、と続いて呼び止められた夜嵐くんも振り返る。ただし彼の声に応えてというより、なんだか気に食わないといった顔で私のもう一方の腕を掴むためだったようだ。それを見て一瞬、彼は黒い方の目を細めたが、そこについては特に言及せず。

「……俺なんかしたか?」

と、夜嵐くんに問いかけた。

*  *

でかい図体の同級生を盾に隠れているつもりなのかと少し思った。目立つのが好きな奴でないのは知っていたけど、そういう意味だけではないかもしれない――俺から逃げるためかもしれない、と思うとやっぱり心臓がジリ、と痛む。

本当は夜嵐という男子生徒に聞きたいことがあったのに、近づいたら思わず手を掴んでいて脅かしてしまった。すぐ放そうと思ったのだが、その前に夜嵐が彼女の腕をとったのを見てしまって――そういうことなら放せないなんて思ってしまったのは、多分、往生際が悪いというやつだ。

「いやァ、申し訳ないっスけど……エンデヴァーの息子さん。俺はあんたらが嫌いだ」

あんたの目は、エンデヴァーと同じっス――どういう意味かと、よくわからなかった。
反論する前に、慌てた声があがる。

「なに、夜嵐くんどうしたの」
「別にどうもしないっス!先輩方行っちゃったぞ!」
「あ、あーうん、ね、すぐ行くよ」

夜嵐が引っ張ったらしいのが掴んだ手首伝いにわかったが、彼女は俺の手を払うでもない。苦笑交じりに返事をして、逆にあちらの手を離させた。
夜嵐は怪訝かつ納得できなさそうな表情で、俺と少女の顔を見比べると、おう、と答えて去っていった。なんだあれ、なんとなくアイツとは反りが合わない気がする。

「で、あの……」

そして振り返った彼女は少し困った顔をしていて、制帽のつばをクイと下げた。それを見てようやく、俺も手を放す。

「悪い、急に……」
「ううん大丈夫」

笑った顔はやっぱり記憶に残るものと相違ない。悪い、と言うといつも、ううん、と笑って答えるのだ。
なんでも受け入れてくれそうな、やわらかい笑顔で。

「久しぶりだね。お互い忙しかったから、連絡できなくて」
「……そうだな」

忙しかったからなのか、気まずかったからなのか。後者に関してこんなところで言及するわけにもいかず、曖昧に流すしかなかった。
だいたい、こんなところで引き止めている場合でもない。お互い、次の試験に掛かっているものは大きいはずだ。チラチラと同校の上級生達を気にしている相手も、同じように思っているのだろう。

「えーっと……あれだ、二次試験がんばろ!ね」
「……ああ」
「まあ、焦凍くんは心配いらないと、思うけど」

頬をかいて苦笑する様が彼女らしい。無意識なのか、どことなく自分のことを過少に見ているような物言いも。すげぇ個性を持っていて、性格も良くて、慎重でやわらかくて、春の日差しが似合う奴。

焦凍くん、って久しぶりに呼ばれた。

「――夢子も、救助演習って、適任だな」
「そ、そうかな……!えへへ、ありがとう」

俺の言葉で嬉しそうに笑う顔を見て生まれる感情は……今この場で口にするべきではない。



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