×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




Close to - 01



偶然目に入ったのが良くなかった。気づかなければ、自分らしくもなく欲しがりになることも無かったろうに。

「ねえ、勝己くん。私これ欲しいな〜」
「は?」

小悪魔的な女の子のように、さり気なくおねだりできるような可愛らしさは持ち合わせていない。さらに相手はあの爆豪勝己である。案の定、振り返った彼は面倒くさそうに顔をしかめていた。

「ペアリング、素敵じゃない?」
「お前指輪なんてするんか」
「勝己くんも指輪なんてしないね」
「知ってんならしょーもないこと言うな、電波女」

お互いプロヒーローなんてやっている身だから、不要な装飾品はあまり好まない。特に爆豪の場合、指輪を付けて仕事なんてしたらその日のうちにぶっ飛んでいく。幽姫にもすぐ予想はついたので、聞き慣れた暴言には苦笑で返した。
とはいえ、ペアリングに憧れる程度の女の子らしさは持ち合わせているし、何より気づいてしまったので仕方がない。

「そういえば私達、ペアのものって持ったことないなーと思って」

そこまで趣味がかけ離れているわけではない。シンプルなものは好きだし、過剰な可愛らしさも厳つさも求めていない。住んでいる部屋の雰囲気も似ているから、相手の部屋に入り浸っても気楽に過ごせるくらいには、好みは一致していると言える。
それなのに1度も、ペアのストラップも色違いの小物も持ったことがない。ペアルックなど論外。といった具合なのは、二人揃って『なんでそんなことをしなくちゃいけないのか』と首を傾げる感性まで一致したせいだろう。

「そんなもん、欲しかったのかよ」
「うーん、別に」
「だったらなんで今更」
「……もうすぐ私、誕生日でしょ?」

その言葉に、爆豪が少し眉を動かして反応を見せた。

「一応もう七回目になるんだから」

こんな図々しいことを言うのもどうかとは思ったが、今更幽姫の誕生日を忘れるなんてことはないだろうという自信はある。

「ちょっと特別なものをくれてもいいんじゃないかな〜……って」

だったら多少、自分の理想を口出ししてもいいだろう。まあそんなものが無くても、爆豪は毎年幽姫を喜ばせるような演出ができる才能まであるので、必要無いといえばそうなのだけれど。

幽姫の言葉に爆豪は一瞬黙り込んで、それから低い声で呟いた。

「……そりゃ何のハードル上げてんだ?」
「え?ハードル?」

意味がよくわからなかったので首を傾げると、爆豪はギクリと肩を震わせてから、苛立たしげに続けた。

「あー、だから!俺の祝い方がマンネリ化してるとか言いてーわけか!?」
「えっ違うよ〜。毎年すごく嬉しいよ?」

急にキレた。なにか痛いところでもついてしまっただろうか。
一瞬驚いたものの、七年の付き合いとなれば爆豪の激情を受け流すくらい造作もなかった。

「というかむしろ、そんなに気遣わなくていいよ〜。あ、なんなら今年は、このペアリング買って一緒につけてくれたらそれで十分だよ」

幽姫としてはいいことを思いついたつもりだった。ペアリングは欲しいし、爆豪に気負わせることもなくなるし、Win-Winである。誕生日は一週間先であるから、爆豪もさすがにまだ準備には入っていないだろう。
と、思ったのに。

「テメェ……!んなもんほっとけ!さっさと行くぞこの鈍間!」
「え〜……」

全然怒りが収まった様子もなく、むしろさらに激しくなってしまった。本当に置いていかれそうなので、もう一度だけショウウィンドウの向こうのリングボックスに目を落とす。
ゴールドに赤い石とシルバーに青い石のシンプルなリング。ゴールドの方がレディースらしく、一回り小さい。

――ゴールドと赤、勝己くんっぽくていい感じなんだけどなぁ。

*  *

「ゴローちゃん、今日若手で飲み行こって話してんだけど、どう?」
「あー、すみません。今日は先約が」

事務所の先輩ヒーローからお声がかかったが、多少申し訳なく思いつつ断った。

「そっか、残念。またデート?」
「えっ」
「嬉しそうだからわかるよー。仲良いね」

申し訳なさをもう少し前面に押し出すべきだった。一瞬思ったが、後の祭りである。
先輩は微笑ましげな表情で続ける。

「いいなー、家事もできて優しくてイケメンな彼氏」
「あはは……」

家事ができるのは否定しない。料理は下手なレストランよりよっぽど美味しいし、掃除も洗濯も、なんなら幽姫の分までやってくれる。
優しいのもかっこいいのも、幽姫からすればいくらでも挙げられる。そんな感じだから、幽姫から話を聞いた知り合いは『優しくてイケメン』なのを疑いもしないが――まさか世間様から『敵向きヒーロー』なんて揶揄されている彼を思い浮かべることはないだろう。

なんとなく、ヒーロー・爆心地とヒーロー・ゴローの交際を公にはしていない。元々はヒーロー活動に集中したいという、真面目な爆豪と幽姫の意思が一致し、変な噂は邪魔と判断した結果である。
そろそろスキャンダルと言うほどでもない噂くらい、気にしなくてもいいとは思う。とは言え今更公表するほどの意味も感じない。バレたらそれでいいし、バレなくても構わない。多分爆豪も、そんな程度の認識なのだろう。

――以前はそれでよかったのだけど。

あんな物を欲しがってしまうということは、少なからず現状に不満が出てきたのかもしれない。
幽姫は一週間経って誕生日当日の今になっても、あの時のペアリングに未練があった。



前<<|>>次

[1/5]

>>Request
>>Top