×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




今でも君を、今からでも - 01



「か、仮免ですか……?でも、私達――」
「先生ェ――!!ありがとうございます!俺!絶対!!仮免取るっス!!!」
「あーハイハイ。がんばれ」
「ま、待ってください……!」
「夢野さんも!一緒に頑張ろうね!!絶対仮免とって!!!凱旋っス!!!!」

――凱旋とか本当に心底勘弁してほしい。

青ざめる私とは対照的に、隣のクラスの夜嵐くんはとても嬉しそうだ。もしかして、彼が先生に直談判でもしたんじゃ……大いにありうる。本来二年生の先輩方が受けるはずのヒーロー仮免許取得試験、突然一年生の私達が受験を許可されるなんて、何かしらの理由がなきゃおかしいもの。

「夢野、夜嵐の監視よろしく」
「監視ィ!?」
「や、あの……!でも私達まだ一年だし……!夜嵐くんはともかく、私そんな、自信ないです……!」

夜嵐くんはやる気も満々みたいだし、一般入試の首席合格だし、っていうか聞いたところによると雄英ヒーロー科の推薦すら首席だったらしいから、大丈夫だろう。元気いっぱいでヒーローにも向いてるし、行きすぎて他所様に迷惑さえかけなければ。
でも私は違う。一応推薦入学だから頑張って優等生の席はキープしてるけど、自分がヒーローに向いているなんて今でも自信ないし。夜嵐くんの監視とかそんな軽いノリで、大事な仮免許試験を受けるなんて……。

「大丈夫、夢野ならやれるさ。今の所、一年生の中で仮免試験パスできそうなのは夜嵐と夢野くらいだって、職員会議で決まったんだ」
「ええー……」
「夢野さん自信持つべきだって!!個性チョー強いし!!」

個性チョー強いっていうのは、うーん。一応、若干五歳で“あの人”のお眼鏡にかなったんだから、まあ。でも、やっぱり自信ないな……人を助けられるようになりたいけど、あの子を助けられないまま逃げたのは私なんだから。

「どうして突然、そんな話に……」
「ん、まあ生徒に言う話でもないんだが……どうも雄英が一年生を受験させるって噂でね。負けてられんってことだよ」

とはいえきっかけは予想した通り、夜嵐くんが直談判に押しかけたことらしいけど。

――雄英、一年生。
それを聞くと即座に、今でもあの子を思い出してしまうのは、往生際が悪いと言うか、なんというか……我ながら呆れる。

「……それなら、私も頑張ります」
「オオ!!夢野さんも意外と負けず嫌いか!?熱血っス!!いいと思う!!」
「う、うん……」

あんまり一緒にしないで欲しいかな、夜嵐くん。

*  *

親戚の大きな日本家屋に移り住んだのは、五歳の頃だった。お父さんの従兄弟のお嫁さんの姉が嫁いだお家、って聞いたけど、どうしてそんな遠縁からお声がかかったかと言えば、ひとえに私の個性が見初められたのだ。
触れたものを分解して何か別のものに作り変える『再生利用』という個性は珍しく、また、貴重な治癒系個性の一つでもある。

同じ年の男の子と引き合わされた。赤と白の変わった髪をして、黒と青の大きな瞳の、なんだか遠い感じの子。その遠さと端正な容貌が手を触れてはいけない芸術品のようで、それなのに生傷や火傷の絶えない彼が、ちぐはぐで不思議で、言いようのない焦燥感に駆られた。
多分、幼いながら、庇護欲のようなものだったんだろう。

“いいなずけ”という言葉の意味を理解するのは結構後のことだったのだけど、私を連れてきた赤色のヒーローは私と彼が仲良くするのをよしとしていたようなので、好都合だった。

「焦凍くん、ちょっと痛いよ」
「ああ……」

一度分解してから作り直すのだから、ほんの一瞬だけど痛みが伴う。じりじりと炙られるような痛みには、焦凍くんはいつも顔をしかめていた。痛みに弱いのではなく、その感覚が嫌いなんだろうと思う。
おじさまの個性を彷彿とさせるからか、それとも左目まで達する火傷痕を思い出すのか、怖くて聞いたことはない。

「いつも悪いな」
「ううん、全然だよ。私こんなことしかできないから」

中学三年の春。焦凍くんと出会ってから十年近く経とうとしていた。
雄英高校の入試を意識してなのか、おじさまは一層焦凍くんに当たりが強く、また焦凍くんもそれに一層反発を見せるようになっていた時期。幼い頃のようにお稽古で怪我をすることはなくなったが、彼は幼い頃から変わらずストイックに鍛錬を続けていたので、ちょっとした傷や打ち身はよくあることだった。
私は相変わらず、そんな焦凍くんにお節介を焼いていたわけだ。

「助かってる、いつも」
「そ、そうかな!えへへ」

あまり人付き合いのしない焦凍くんも、いわゆる幼馴染である私には、比較的やわらかい表情で接してくれることが多かった。実はそれは私の密かな自慢だったりした。

ただし、そのせいで私は大いに勘違いをしていたという、笑い話にもならない苦い思い出。

「――だって許嫁だもの、役に立ちたいよ」

普段なら口に出さなかったと思う。別に私は“許嫁だから”側にいるわけじゃないし、いつも険しい顔で冷たい目をする焦凍くんが、自分の前でほんの少し笑ってくれるのが好きだった。

春の陽光が優しくて、その中で彼が穏やかに微笑んでくれて、それがとても幸せで――口をついてしまった。
それは意地汚い欲だったに違いない。幸せな時間を一瞬にして凍てつかせたのは、私の罪。


「は……?あんなクソ親父の言ったこと、真に受けてたのか……?」


彼が私の前で笑ってくれなくなったのは、私の自業自得だったのだ。



前<<|>>次

[1/6]

>>Request
>>Top