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ひとめ見つめて気づくこと - 02



お出かけって、お買い物に付き合うってことだったらしい。ますますなんで俺に声をかけたんだろう、女子同士で行けばいいのに。
前日メールが送られてきた時はそう思ったけど、駅で待ち合わせた八百万の私服姿が新鮮だったので、まあいっかという気になった。荷物持ちは男子の方がいいとか、そういう感じかな。

「突然のお誘いでしたのに、来て下さって嬉しいですわ」
「ううん、気にしないでー」

電車に乗ると、まあまあ人がいて席は空いてなかった。みんな休日に遊びに行くんだなー、すごいな。
八百万がドアの隣に立って、俺はその前のつり革に捕まることにした。ドアの隣なんて、俺だったら絶対もたれかかって寝るのに、八百万は相変わらず背筋を伸ばして、手すりに捕まって立っていた。

目的地まで数駅。うーん、大丈夫だろうか。
思った途端、ふあ、とあくびが出た。もはや癖だ。でも八百万がクスリと笑ったので、気分を害した様子はない。

「休日はよく寝ていらっしゃるとか」
「ん?誰に聞いたの?」

話したことあったっけ、と少し考えてみたけど。結局、上鳴さんとお話されていたでしょう、とのことなので、上鳴に誘われた時のやり取りでも聞いたらしい。俺だって忘れてたのに、すごいなー。

「眠たいのなら、寝ていても構いませんよ。着いたら起こしますわ」
「そんなことしないよ、せっかく八百万と一緒なのに」

二人で出かけて片方が寝てるって、それは流石に問題がありそう。
そんなことを思いながら答えると、八百万はパチリと目を瞬いてから、ありがとうございます……と目をそらしながら呟いた。

「昨日の夜早く寝たから、寝ないように気をつける」

個性の関係で、俺は人より多く寝るようにしている。一晩最低十時間、プラス日中にもお昼寝が四時間できれば嬉しい。
毎朝登校する時も電車の中で立ったまま寝てるので、今この状況で寝ろと言われればすぐ寝れると思う。俺は寝入りも寝起きもあっさりしてるので、迷惑はかけないはずだけど……いや、やっぱり八百万一人だけ放っておいて寝るのは良くないよね。

八百万がそうですか、と嬉しそうに笑ったので、俺の判断は正解だったようだ。昨日十三時間睡眠確保した俺、えらい。

*  *

大型ショッピングモールはやはり休日となると人で混み合っている。
到着早々、何買うの?と夢野さんに尋ねられた。当然何か用事があって買い物に来たのだろう、という感じがして少し焦ってしまった。なにせ、芦戸さん達のアドバイス通りに決めただけの目的地。

とりあえずは洋服くらいしか思いつかずそう伝えると、女子だねー、とよくわからない反応をされた。面倒だという意味なのかと一瞬勘繰ったものの、特に表情も変えず洋服店の並ぶ階に向かう様子からは感じ取れない。相変わらず、何を考えているのかよくわからない方ですわ。
とにかくそういうわけで、まずは女物の洋服店に向かった。のですけど。

――そういえば、こういうお店でお洋服を買ったこともあまりありませんでした……。

店内にはお客さんがたくさん見て回っていたり出入りも激しい。店員さんはレジの対応や商品の整頓、お客さんの質問に対応するので忙しそう。
普段はお客さんの少ない、あるいは事前に予約したお店で、店員さんと一対一で話しながら買い物している。遊園地ほど勝手がわからないわけでなくとも、一人で服を決めるというのはこんなに難しいものだったとは。

「八百万、いいのあった?」
「へっ、あ、もう少しお待ち頂けますか!?」
「んー」

急かされたのか、それとも服を手にとって立ち尽くしていたから声をかけたのか。どちらにせよ、女物の洋服店で夢野さんをあまり待たせるのも悪い気が。
そうして焦ると、ますます今手にしている服が自分に似合うのかわからなくなってきた。

「……そうですわ!夢野さん!」
「うん?」

ピコンッと思いついて名前を呼ぶと、嫌な顔もせずに首を傾げて答えてくれる。

「このお洋服、どうでしょうかっ?」
「え」

洋服の身頃を合わせるようにして見せ、尋ねてみた。これなら夢野さんも多少居心地の悪さが減って、私も他の方の意見を聞けると思ってのこと。

夢野さんは一瞬目を丸くしたものの、すぐにいつも通りの静かな瞳に戻った。そしてじっと洋服と私の顔を見比べ始める――そうだった、夢野さんは結論を出すのに時間がかかるのでした。失念していた結果、思っていたより長く向き合うことになってしまった。
ちょうど通路を通りがかった女性の二人組が、コソコソと笑い合うのが聞こえる。『高校生カップルかな、かわいー』って、大変な誤解を受けてしまったようですが!?

「あ、あの夢野さんやっぱり――」
「ごめん八百万、俺そーいうのやっぱわかんないや」
――あんなにまじまじ見た結論がそれですか!?

内心そう叫んでしまった。結局、無駄に恥ずかしかったのは私だけ。夢野さんは少し申し訳なさそうではあったが、特に照れる様子もなく、先ほどの二人組のコソコソ話も聞こえなかったらしい。
ああ、もう!何も進展していないのに疲れてしまいました……こっそりため息をつきつつ、持っていた服を棚に戻そうとして。

「あー、店員さん。いいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「あの服試着できますか」
「ええ、もちろん!お客様、こちらのフィッティングルームにどうぞ」
「へっ?」

夢野さんが近場にいた店員さんを連れて来た。戻しかけた服を店員さんが受け取って、どうぞどうぞ、と店の奥に促される。
思わず夢野さんを振り返ったけれど、彼は目ざとく試着室近くのベンチを見つけて行ってしまった。なんということ。

ともあれ断るわけにもいかず――というか、多分結果オーライではあったのでしょう――流されるまま試着を済ませて、外を覗くと先ほどの店員さんが何枚か服を腕にかけて待っていた。

「あ、いかがですか〜?その服、今のトレンドを取り入れていましてー」
「はあ……」
「似た系統のお洋服でしたら、この辺りがオススメですよ!よかったらご試着いかがですか?」
「え、えーと……」

やたらグイグイくるので困惑。ちらりとベンチに座る夢野さんの方を見ると、目が合った。頬杖をついたまま少し首を傾げて、ひらひら手を振られる。いえ、そうではなく。

「もしかして、ご迷惑ですか?」
「そういうわけでは……」
「あちらの、彼氏さん?から、自分じゃよくわからないから、話聞いてあげて欲しい、と承ったもので……」

言いながら、店員さんが視線を向けたのは当然、夢野さんだった。

――まさか、彼がそんな気遣いのできる方だったなんて!
という感想は少し失礼かもしれないけれど。いろんな意味で顔が熱い。

「彼はお友達です……!」
「あら。失礼しました」

とにかく訂正すると、店員さんは一つ瞬きしてからにっこり笑う。きちんと訂正されてくれたのでしょうか……。



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