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ひとめ見つめて気づくこと - 01



「急で申し訳ないのですが、あの……明日、もし夢野さんが空いていらっしゃるなら……お出かけ、しませんかっ?」

最後は勢いづいて、なんだかやけに気負った様子で言われた。ちょっと不思議だ。そもそも八百万がそんなことを言うのも意外だし。

「……お出かけ?」
「は、はい。あ、ご用事があるのでしたら……!」
「えっ、いや、予定はないよ」

慌てて撤収しようとするものだから、こちらも珍しく慌てて引き止めてしまった。八百万って、偶にこう、自信なさそうに言う。しおらしいのも可愛いけど、困った顔されるのはあんまり好きじゃない。

「なんで急に?」

しかも俺と。そこまで追及するとまた撤収されそうなのでやめておいた。
八百万とお出かけは普通にしたいし。

「なぜって、それは、その……お、お友達とお出かけというのは、変なことでしょうか!?」
「おともだち……」

またちょっと勢いで答えられたような気がする。珍しいなぁ、八百万がこんな風にわたわたしてるの。

俺は先日、八百万と晴れて公式に――って言い方が正しいか知らないけど――友達になったらしい。八百万公認。
それ以来ちょっとは会話の数も増えたかなぁと満足してたけど、どうやら八百万は俺が思ってた以上にちゃんと『お友達』してくれるつもりらしい。さすが、真面目で親切。

友達とお出かけ。ふむ。

「うん、俺も行きたいな、八百万とお出かけ」
「そっ……そうですか!」

八百万はぱっと笑顔を浮かべ、嬉しそうな声で、それではまたご連絡しますね!と言いおいてその場を離れた。教室の外で待ってたらしい芦戸達と合流して帰っていく。俺も早く帰ろ。

「リア充爆発しろ……」
「……どうしたの峰田」
「不純異性交遊は学校の外でやれやぁ……テメーは名高い雄英にナニしに来てらっしゃるんですかねぇ、ええ!?!?夢野さんよォォ!」
「……うーん?」

なんかすごい剣幕でごちゃごちゃ言われてるけど、顔すごって感想しか湧かなくてあんまり聞こえなかった。

「おいおい峰田ぁ、顔やべーぞ」
「悪いのはオイラの前でデェトの約束なんてしくさりやがったコイツだろがぁ……」

くだを巻きすぎてデートって単語が呪いのワードみたいになってる。上鳴もさすがに苦笑してるし。

「怨念やっべえな。さすがの夢野も女子の誘いは断らねーか、前に俺らが誘った時は寝るから無理つったくせに」
「……ああ、そーだっけ」

いつ誘われたかも忘れたけど。休日はほぼ丸一日寝るのが習慣だから、休みの日に友人と遊びに行くこともほぼない。誘われても大抵、あまり考えずにお断りすることが多い。
……そう考えると、さっき八百万にはあまり考えずに頷いてしまった。珍しいこともある。

「ま、明日頑張れ!デート上手くいったら、もしかしたらもしかするかもじゃん!」

上鳴はそう言ってニッと笑うと、未だ顔がすごいままの峰田の背を叩きつつ揃って帰っていった。おー、と返事しながら見送って、しばし考えてやっぱりよくわからず一人首を傾げる。

――『お友達』と『お出かけ』を、デートって呼ぶ?普通。

もしかしたら、何がもしかするのか。峰田と上鳴の思考がよくわからない。

*  *

「いや絶対ガチのヤツだってー!やったじゃんヤオモモ!」
「そ、そうでしょうか?」

ハンバーガーショップでポテトとジュースだけ頼んで席に着いた芦戸さんは、むしろ私よりも嬉しそう――というか、楽しそう?――なご様子。うんうんと頷く麗日さんと、表情はわからないけれどパチパチ手を叩いているらしい葉隠さんも。

「いやー、まさか休日まで寝てるとは思わなかったけど。上鳴みたいに断られなくてよかったよね!」
「そりゃ好きな子から誘われて断るほど、不思議くんじゃないでしょ、夢野くんも!」

好きな子。葉隠さんの何気ない発言で、つい顔が赤くなってしまう。麗日さん、微笑ましげな表情はやめてください。

先日、全く予想もしていなかったことに、なんとクラスメイトの夢野夢太さんから告白なるものを受けてしまった。しかも授業の合間の十分休憩、生徒もたくさん残っている教室で。
本当に、そんな素振りを感じたこともなかったので、大変動揺させられ、苦し紛れに『お友達から』なんて返事をしてしまったけれど。

「で、で?どこにデート行くの?」
「デートではありませんっ。『お出かけ』です」
「でも夢野くんは絶対デートだと思って頷いたよね!」
「オー!ヤオモモったら罪作りー!」

芦戸さんと葉隠さんに相談したのは間違いだったかしら……いいえ、親身になってくれているのだから、そんなことを考えてはいけない。
麗日さんが苦笑しつつ宥めてくれて、おかげでお二人も少し落ち着いた。

「ま、でも夢野かぁ。会話続かなそう」
「芦戸さんハッキリ言うなー……」
「普段どんな感じなの?」

葉隠さんの言葉に、あとの二人からも興味ありげに視線を送られる。普段の夢野さん……。

「……いつも寝ていらっしゃるので、私も詳しくは」
「なんっでやねん!」

芦戸さんがなぜか関西弁に。

「おかしいでしょー!だってさ、告白して『お友達から』って返されたら、ちょっとはアピールとかしないかな!?」
「夢野くん、よくわからんとこあるから」
「不思議くんだよ!やっぱり手強いね!」
「……手強い、ですか」

しかし夢野さんが休み時間にわざわざ起きていて、そしてわざわざ私にア、アピール……本当は、告白されてから二、三日は少しばかり期待――いえ、特別して欲しかったわけでもないのですがっ――していた。結論から言えば、その後彼の態度が変わるということもなく、拍子抜けしたくらい。休み時間も授業中も、隙があれば寝ているようなのも変わらない。
……強いて言えば、ゆるく微笑む表情を見ることは増えたかもしれない。ちょっとした会話をした最後だったり、前から後ろに回したプリントを受け取る時だったり。

――むしろそれで少し動揺してしまうのはこちらの方。

「話題に欠かないところの方がいいんじゃない?」
「じゃー、遊園地とか」
「ダメダメ!遊園地で待ち時間沈黙とか、夢野なら絶対寝るし、地獄じゃん!」
「やっぱりお買い物が無難だよ!高校生の健全なデートって感じ。気まずくなったら店変えればいいんだもん」

だからデートではないのに。結局葉隠さんの提案がいいとのことで――私も遊園地経験は少なく勝手がわからないので、やはりそこで結論は落ち着いた。電車で数駅行った先の、大きなショッピングモールでお買い物。

「が、頑張りますわ……!」
「正直なんでヤオモモが頑張るのかわかんないけど」
「それね。普通は夢野が頑張るとこだよね、これ」
「でも頑張る八百万さんかわいー」

私のこんな相談を快く聞いて下さった三人には感謝ですわ。皆さんにきちんとご報告できるよう、明日はしっかりしなければ!

――夢野さんが本当に、寝ぼけたのでもなく、私に好意を抱いて下さっているのかどうか。きちんと確認するために!



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