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怖くない、怖くない - 03



何はともあれ幽姫が所望したお化け屋敷である。他のアトラクションより比較的早く入場できた。

「すごい、ストーリーなんてあるんだ〜。ワクワクするね」
「のんきな奴」

入り口でお札を三枚もらった。設定としては、廃墟となった屋敷に怨霊が現れるため成仏させるべくお札を貼って回る、ということらしい。
最初のエリアは雑木林から始まり、風や葉の擦れる音響と足元の冷えた空気は、なんとなく合宿での肝試しを思い出させた。幽姫も何か思い当たる節があったようで、爆豪の隣でクスクス笑っていた。

「暗いんだから、こけんなよ」
「ありがと、でも暗いのは結構得意だよ」

そういえばそうだった。というか多分、幽姫がこけそうになったら爆豪より先にゴローちゃんがフォローして事なきを得るだろう。爆豪はバレないように小さくため息をついた。どうにも格好がつかない。

さっさと雑木林を突っ切って、日本家屋の引き戸の前まで進む。案の定二人揃って、恐怖心を煽られる感じもない。お化け屋敷側からすれば、面白くない客になるだろうと予想しつつ、引き戸の取っ手に手をかけた。

――バンバンバンッ。
「きゃっ」

前言撤回。まんまとハマった、ちょっとムカつく。
引き戸が叩かれたように震える演出と、ベタな赤色の手形が現れる仕掛け。爆豪は一瞬肩を震わせたものの、幽姫が小さく声をあげたのは聞き取れた。

「びっくりしたぁ……」
「はっ。最序盤だぞオイ」
「……爆豪くんもちょっとビクッてしてたくせに」

少し不満げな声は聞こえないフリをしておいた。

引き戸をくぐると板張りの廊下に出て、いかにも不気味な人形や調度品が転がっている。
破れた絵画には悲痛な表情を浮かべた髪の長い女が描かれていて、前を通ると甲高い悲鳴が出た。ひっ、と引きつるような声が混じって聞こえたような気もしたが、思い違いな気もした。途中壁が途切れて障子の部屋が二、三あったので、なんか影でも映す演出なんかありそうだと思えば、案の定。

――ギャアアァ……!!
「ひゃぁ、え、なにっ?」
「こんなんよくあるヤツだろ」
「そ、そうなの?」

パッと赤いライトがついて、障子越しに大きな影が腕を広げたように映る。
これについては、爆豪からすれば予想通りだったが……ちらりと目をやると、薄い赤の光で照らされた幽姫は、眉を下げて障子の向こうの影をおずおずと見上げていた。スタッフから受け取った紙切れのお札を、なぜかしっかり握りしめている。
……いや、まさかな。爆豪は思い直して、ダラダラすんな、と言い捨てて廊下の奥までずんずん進んだ。一番奥の四つめの障子には取っ手があったので、ルートはここだろう。今度はなんの仕掛けもなく、素直に障子が開く。

次は仏間だった。どこからともなく流れてくるお経は、一体誰が唱えている設定なんだか。一本の柱にお札がベタベタ貼られていて、目的地の一つはここらしい。

「おい、さっさと貼ってこい」
「え、私?」
「あ?テメーが持ってんだろが」
「うあ、そっか……」

呆れて見やると、幽姫はどうも嫌そうな顔をして頷いた。握っていたお札を一枚手にして、いそいそと柱に駆け寄りそっと貼り付ける。

直後、シュウウッと音がして仏間の奥で白い靄が立ち込めた。突然の演出には驚いたが、その靄をスクリーンとして髪を振り乱した女の顔をぼんやり映し出すのは凝ってる気がした。ユルサナイ、と安っぽい台詞で靄と共に女の顔は消え、いつの間にか流れていたお経の音も止まっていた。

さて、次のルートは先ほど女が映った奥らしい。暗くて最初はよくわからなかったが、そこには黒いカーテンがかかっていて先に進めるようになっていた。
理解した爆豪は迷いなくそちらに向かおうとした。
のに、その右手首をガシッと掴まれて一瞬ビクついてしまった。タイミング悪いんだよクソが!と内心叫びつつ睨み返す。

「テメッ、なんだよコラ!!」
「や、あの、え〜っと……!」

振り返った先の幽姫は爆豪の悪態などに驚きはしない。はずなのだが、ほんのり青色の照明のせいだけとも思えない真っ青な顔をして、冷たい両手の指先で爆豪の手を強く掴んだまま。

「――ひ、ひとりにしないで……!!」

――まじかコイツ。

とは思ったが、早々に潤んだ瞳で見上げてくるのは悪くない気がする。しゃーねーな、と呟くと少しホッとしたように目を細めて、身を寄せてくるのも。
なんとなく――本当になんとなくだ、狙ってなんてねぇ――握られた手の指を絡めると、ギュッと強く返ってくるのも。



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