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怖くない、怖くない - 02



どうせクラスメイトにはバレてるんだから――爆豪本人が盛大にバラしたんだから――一緒に寮を出ればいいのに。
幽姫はそう思ったが、爆豪が頑として頷かないので、結局待ち合わせは雄英高校最寄りの駅前になった。よくわかんないね〜、とゴローちゃんと言い合ったものの、約束の時間にとっくに駅前で待っていた爆豪を見つけると、悪い気はしなかった。

寮からの道のりは同じはずなのに、背を見ることもなかったくらい早く到着してくれていたのかとか。寮内で出くわした時のラフな格好より、少しお洒落に見える私服姿とか。
駆け寄るこちらに気づいて、目を合わせて待ってくれることとか。待った?待ってねーよ別に、とかいう定番のやりとりとか。当然のように切符を差し出して、電車何分に来る奴乗るぞ、なんていう下調べとか。

幽姫に合わせて少しゆっくりした歩調は、いつも通りではあるが……あらゆる特別感、非日常感。はあ、なるほど。

「ねえねえ、爆豪くん」
「なんだ」
「私ちょっとナメてたかも。デート、すっごく楽しみ」
「はっ。そうかよ」

鼻を鳴らして笑うのも、いつも通りのはずなのに。
今日は運良く天気も良くて、すっきりした青空の下ではなんだか二割り増しくらいで、かっこいいかも。

*  *

「――爆豪くん、かっこ悪い〜」
「カッ……うっせぇ黙ってろボケカス……!!」

やっと見つけた空席に座った途端、気分悪そうに首をもたげる。今の台詞で無反応であれば、さすがに幽姫も心配したが、いつも通りの暴言が出てくるようなら大丈夫だろう。

残念ながら今日が遊園地デビューの幽姫なので、ジェットコースターに酔った時の効果的な対処法はよくわからない。とりあえず立ち歩くよりは座った方がいいと、パラソル付きのテラステーブルについた。すぐそこでジュースやらソフトクリームやらを売っているので、せっかくだからしばらく休もう。

「爆豪くん、アイス食べられる?しんどそう?」
「……食う。バニラ」
「はあい。じゃあゴローちゃんと待っててね」

珍しくしおらしい爆豪が不思議なようで、ゴローちゃんはさっきから爆豪の周りをふわふわ漂っている。猫の幽霊にはジェットコースターに酔うとかいう発想はないようだ。
というか、遊園地デビューのゴローちゃんは初ジェットコースターを爆豪の膝の上でワクワク待っていた割に、動き出した乗り物の速度に普通についていけず置いてけぼりにされていた。三度挑戦して、四度目は大人しくスタートかつゴール地点のホームで幽姫達を待っていた。
で、五度目でついに爆豪がギブアップになって、やっとアトラクションを離れたというわけである。

軽い足取りでソフトクリームを買いに行った幽姫の背を見送って、爆豪は深くため息をついた。
なんだアイツ、どういうこった、全く予想外だ。

爆豪は元々、絶叫系に弱いわけじゃない。むしろ今まで、アトラクションで気分を悪くしたことなんてなかった。まあ、園内で一番激しいジェットコースターに、五回も連続して乗った経験もなかったが。
とはいえだ、幽姫は顔色一つ変えず爆豪の介抱をするとはどういう了見だ。遊園地、初めてじゃなかったのかよ――当然、爆豪には納得がいかなかった。

ジェットコースターより先に、フリーフォールやコーヒーカップなど一通りのアトラクションには乗った。どれもこれも、幽姫がさほどダメージを受けた様子はない。コーヒーカップなんか、存分にぶん回してやったというのに――降りた後の幽姫曰く、すごく意地の悪い顔をしていたらしい――なんで私達のカップだけあんなに速かったんだろうね、なんて惚けただけだった。システムはよくわかっていなかったようだ。
多分あの様子だと、爆豪のせいだとバレたところで、その方が楽しいならいいと思うよ、なんて笑うだけなのだろう。

そうなってくると、何としてもアトラクションで死にかける幽姫を見ないと気が済まない気分になってきたのだ。
別にそれが見たくて来たのではないが、そりゃあ介抱されるよりはする方がいいに決まってる――結果的に、今に至るわけだった。

もう打つ手がなくなったので、爆豪の完敗である。あとは幽姫が実は高所恐怖症で、観覧車の最上部で青ざめる程度の期待しかできない。
ソフトクリーム二つを片手に戻って来た幽姫が、はい、と白い方を差し出してきた。もう一つはピンクのストロベリーだった。

「……お前、高所恐怖症とかじゃねーよな」
「ないよ。あ、観覧車心配してくれたの?全然大丈夫だよ!あれって最後に乗るものなんでしょ、楽しみだね」

観覧車が最後に乗るものかどうかは知ったことではないが。どうも爆豪が親切心で言っていると勘違いしてくれたらしく、もう訂正する気も起きなかったのでため息だけついた。

「……お前遊園地向いてねーわ」
「へ?そうかな。結構楽しかったよ」
「何が」
「うーん、風が気持ちいいよね」

すっとぼけた回答に、爆豪はまた深々とため息。何その反応、と幽姫は目を瞬かせた。

「なんだか懐かしい感じだったな〜。実は昔、個性を使いこなせてなかった頃ね、ゴローちゃんにあんな風に振り回されること多くって。最初は怖かったけど、慣れちゃった」
「そういうことか……」

個性のせいとなれば、もう何も言うまい。失念していた爆豪が悪い。そういえば、入学初日の体力テストの持久走で、こいつはトラックを律儀に五周、確か二十秒くらいで振り回されていたのだった。忘れてた。
爆豪が十分会話できる程度に回復したと捉えたらしく、幽姫は園内マップを開いて次はどこ行こう、と楽しそうにし始めた。とはいえ乗り物の類は制覇してしまったので、爆豪としては特に希望もない。
冷たいアイスを食べながら観察していると、そうだ爆豪くん、と何か思い出した様子で目を輝かせた。

「お化け屋敷!行ってないよ、まだ」
「お前行って楽しいかそれ」
「さあ、わかんないけど」

爆豪はあえて候補から外していたのだが、幽姫の方はむしろ興味があったらしい。
おばけつまり幽霊なんて見慣れたもんだろうに、あえてお化け屋敷に行きたいというのは意外だった。

「他にないもの。爆豪くん、乗り物は疲れるでしょ?」
「ああ!?余裕だわナメんな!」
「えー……私も十分堪能したからいいよ」

その台詞は本心なのか、それとも爆豪のプライドを配慮したのかはわからなかった。が、もう十分というのは爆豪も同意見だったので、結局そのまま黙ることにした。

「お化け屋敷って一回行ってみたかったんだよね〜。ゴローちゃんも興味あるよね、ねー」

しかも幽霊そのものまで興味があるか。よくわからなかったが、何もない空間と示し合わせたように笑い合う様子からして、嘘ではなさそうだ。
本人達が行きたいというなら構わない、爆豪も特に苦手意識はなかった。あんなものは子どもだましであるし、最悪、バトれば負けない。

「爆豪くんはお化け屋敷大丈夫?」
「ん」
「まあ、大丈夫じゃなかったら私やゴローちゃんいるしね!」
「黙ってろ調子乗んな上から物言ってんじゃねえぞ」
「え、ごめん」

思っていた以上に幽姫より先にダウンしたのが気に食わなかったらしい。低いトーンの声に、幽姫も割と本気で謝ってしまった。



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