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怖くない、怖くない - 01



「――爆豪くん。遊園地行こ」

何か言いたげにしているなとは思っていたが、なかなか言い出してこないので、そろそろキレそうだった。そんなタイミングでようやく口を開くとは、幽姫はなかなかに爆豪の間を理解していると言える。

「……遊園地?」
「うん。爆豪くん、好き?」
「フツー」
「言うと思った」

そう言ってクスクス笑う幽姫は、嫌いって言うよりはマシだね、と呟く。絶叫系の爽快感は嫌いじゃないが、片道一時間かかる距離を出かけるくらいなら、近くのゲーセンでも行ってる方が気楽、といった程度のものだ。
むしろ幽姫の方が、遊園地なんて騒がしい場所と無縁そうな気がするのだが。

「お前は」
「私?うーん、行ったことないからわかんない」
「はあ?」

行ったことないのかよ。なのに急に誘うか。相変わらず、わけのわからない女だ。爆豪は不可解さに眉を寄せたが、幽姫はそのまま続ける。

「だって一緒に行く友達いなかったし、両親もあんまり好きじゃないらしいし」
「じゃあなんで」
「だからだよ〜。お父さんが知り合いからペアチケットもらったらしいんだけど、行く気も時間もないから、爆豪くんと行っておいでって」

まさかの親からの勧め。
一応恋人同士だってことは、幽姫の両親に知られているらしく――もちろん爆豪は許可していないのに、幽姫が何も気にせず母親に零したようで――公認といえば公認なのだが。デートコースまで口出しされるのは、喜べばいいのか嘆けばいいのか。
爆豪としては複雑な心境に陥ったが、幽姫はまた何も気にしない口調で。

「爆豪くんなら勝手知ってるだろうから、遊園地デビューにはうってつけだって」
「遊園地デビュー」

まるで赤ん坊を公園に連れて行くのと同レベルか。霊現家は何かとおかしい、爆豪はなんとなく理解し始めた。

とはいえ、ペアチケットということは当然二人きりなのだし、つまりデートというやつに他ならない。
それを幽姫が理解して言っているかは別の話だが、乗らない手はない気がする。

「いいぜ、別に」
「本当?よかった!」

あっさり了承した爆豪に、幽姫はちゃんと嬉しそうに笑った。

「ゴローちゃんも遊園地デビューだね!」

と続いて、そうだ二人きりじゃなかった、と思い直す。二人と一匹だ。
そしてそういう言い方をするあたり、やっぱりデートとは思ってなさそう。爆豪は舌打ちでもしたい気分になったが、しても多分理解されないのでやめておいた。

「本当はね、爆豪くん最近週末は講習会行ってるから、迷惑かな〜って思ってたの」
「あ?あー……ンなもんヨユーだわ」
「ふふ、そっか」

なかなか言い出さなかった理由は、そういうことだったらしい。たまにそういう気遣いをする、普段は非常識なこともポンポン言うくせに。
爆豪はベッドの上に放り出していたスマホを引き寄せて、念のためスケジュールを確認する。

「……来週の日曜」
「空いてる?わかった、じゃあその日ね」

表情を明るくさせて、楽しみ、と呟く。爆豪の膝の上で見えない重みが飛び跳ねる。ゴローちゃんも楽しみなようだ、へーへー勝手にやってろ。

言いたいことは終わったようで、時間とかまた決めようね、と言った幽姫がキャスター付きの椅子を戻す。
例のごとく爆豪の部屋で、時刻はもうすぐ午後十時。ゴローちゃん帰るよ、との言葉で、膝の重さが消えた。とっくに課題も日課の自主トレも終わっているから、あとは寝るだけか。

「おやすみ爆豪くん!デート、楽しみだね」

また嬉しそうに笑って、幽姫は部屋を出て行った。

バタンと閉まった扉を見送って、鍵を閉めねばと冷静には思いつつ、ベッドに上半身を倒れこませる。

――デートってわかっとったんか、あの電波ァ!!

やるせなく左腕を振り下ろしたところで、ボフンっと間抜けな音しかしなかった。



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