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your charm - 06



――しょーとくんは、なにか好きなものある?

私が尋ねると、彼は考え込んでしまった。その時期の子どもであれば、あれもこれもそれも好き、なんて言葉が湧いて出てくるものだ。
なのにその子はうーんうーんとしばらく黙っていた。それからようやく、少し言いにくそうに眉を下げて答えた。

オールマイト。言わずと知れたナンバーワンヒーロー。私も例に漏れず素晴らしいヒーローは大好きだったので、いっしょだぁ!と声をあげた。すると彼は安心したように笑って、いっしょだね、と嬉しそうにした。

――じゃあ、オールマイト作ろ!先生先生、オールマイト作りたいの!
――オールマイトっ?ええと、ちょっと待ってね、先生もオールマイトは作ったことないなぁ……。
――しょーとくんも折り紙しようよ!いっしょに作ろ!
――……うん、いっしょに作る。

私の言葉に先生は慌ててネットでオールマイトの折り方を調べてくれた。幼稚園児だけで理解して作るには、少しハードルが高いレベルの折り紙だった。私は先生と揃って首を捻りながら、オールマイトを折り上げる。
そういえば、あの時彼は思った以上にうまくいかず、結局オールマイトを折るのは諦めてしまったのだった。

*  *

「そういえば、あのお守りどうしたの?」
「え?なに?」
「一番新しいやつ」

友人に言われて思い出した。そうそう、満員電車に乗るからしばらく外しておこうと思って、鞄に入れておいたのだった。
梅の刺繍の赤いお守り袋、お気に入りだから電車とかで落とすとショックだなと思って。数日前の話だ。

「失くさないようにと思って〜……鞄の中に……入れて…………」
「ん?」

そう、鞄の中に。入れたのだけれど。
あれ、内ポケット?外だっけ?家の鍵しか入ってな……イヤイヤ、じゃあポーチの中に移したかも。やっぱ移してない、ええと、だから、ポケットじゃなくて……んん?

「もしかしてなくした?」

友人がハッキリ言った。私は鞄を漁っていた手を止めて、呆然と呟いた。

「なくした……」
「あちゃー」
「失くした……!?嘘でしょ……!?」

言っておきながらやはり信じたくない現実というものはある。
鞄の中の財布やポーチや教科書ノート、全部机の上に出して底を覗く。空っぽ。荷物の隙間に挟まっていることもなく。やっぱりない。

「心当たりは?電車だったら駅に届け出てるかも」
「電車で落とさないようにって仕舞ってたのに……」
「職員室のとこに落し物コーナーあるじゃん、見に行ってみたら?」

友人の助言を受けて、一階の職員室前まで行ってみた。無い。
帰還すると友人がドンマイ、と軽い言葉で慰めてきた。慰められきれない。とりあえず帰る時に駅員さんに尋ねてみることにした。

ああー、つらい。なんたることか。ただでさえ、本当の持ち主に渡らせてあげることもできなかったのに、その上どこだかわからない場所で落として放置してしまったなんて。落ち込む。
先日あの彼と目が合って、一人勝手に舞い上がってしまった罰だろうか。

*  *

「お守りじゃん!珍し〜」

突然そう声をかけられて、ぼうっと駅の広告に向けていた視線を向けた。
さっきまで上鳴や切島と騒いでいたはずの芦戸が、俺の鞄にぽつんと揺れている赤色のそれを指先でつついていた。目ざとい。そして一週間の職場体験を前にテンションが普段にも増して高いようだ。

「轟って神頼みとかしないタイプだと思ってた!」
「ああ、まあ……」

実際のところ、確かに神頼みなどといった曖昧なものに縋る性格はしていない。しかし存在に気づかれたからには変なことを言うと無駄な詮索を受けそうだ。とりあえず曖昧に頷いておく。
なにがそんなに興味をそそるのか、へええー、と声を漏らす芦戸は赤いお守り袋をつまんで見つめている。なんとなく居心地が悪いので、なんだ、と尋ねた。

「いやさ!似合うなーっと思って」

にかっと笑った芦戸の言葉に、つい目を瞬かせる。

「そうか?」
「うん!だいたい紅白ってらしいし、色味もさぁ」

髪色の話か。そのくらいの感想なら俺でも言えるぞ。

「それにこの紐、よく見たら一本だけ水色だよね!轟が一番ぴったりだ!」

芦戸はそう言うと、満足げに頷いてまた別の奴に絡みに行った。元気なもんだ。

鞄に揺れるお守り。改めて見ると確かに、白の紐には水色がちらちらと覗いていた。あんな短時間でよく気付いたなアイツ……全く気づいていなかったとは言えない。
深みのある赤の、梅らしい花の模様が刺繍されたもの。制作元も、何祈願とすらも書かれていない……おそらく、これもあの女子生徒の手作りなのだろう。八百万に白いお守りを作ってやったように、自分用なのかなんなのかはわからないが。

拾った落し物をまるで我が物顔で持ち歩くのは少し――というか多分かなり――おかしなことだとは理解している。しかし、廊下にぽつんと落ちていたそれを見た時、なんとなく心のざわつく感じがして。
思わず拾ったまま、教室に持ち帰った。クラスも違うし、授業も始まるし、これから職場体験だから渡しに行く時間は――なんて、苦しすぎる言い訳だが心の中で呟いて、こうして持ってきてしまうくらいには心惹かれた。

何がそんなに気になるのか。芦戸の褒め言葉を聞いたところで解決にはならなかった。何の変哲もない、ただのストラップ。きっとご利益ってやつも無いのだろうに。

――職場体験終わったら、返す。

また心の中で言い訳して、とりあえず一週間は持ち歩くつもりらしい自分に、少し呆れる。



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